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「「姉上ーーーっっ!!!!」」
バンッと扉が壊れそうな勢いで開けられたと同時に少年期特有のアルトボイスが2つ、それは見事に重なり大音量サラウンドで屋敷に響き渡った。
その手荒く開かれた扉の僅か一歩手前、騒動の発端であるレベティアナが立ち尽くしていた。彼女の悪運の強さはここで発揮されたらしく、もう少し近づいていたら顔面を強打していただろう。
そして彼女はというと、目の前の扉が突然開いたことに驚いて大きな瞳は溢れそうなほど見開いていた。その形相からどれ程驚いたかが想像できる。
だが、ゆっくり驚愕に固まっている余裕すら神は与えなかったらしい。それは一拍も置かずに、容赦なく彼女を現実に引き戻す。
双子の弟達からのタックルをくらった彼女はたたらを踏んだ。しかし気合だけで何とか乗り切ることで転倒は回避。しかしその直後、容赦のない双子からの責苦を強いられることになる。
「姉上っ、何度も言っているように無断で屋敷から出るのは如何なものかと言っているでしょう!三歳児でも分かりそうなことを!なぜ姉上は理解して下さらないのですか…!?」
「そうだぞ!全く、どれほど僕らが心配したと思っているんだよ!しかも侯爵令嬢がほいほい居なくなるなんて聞いたことない!このお転婆ッッ!!」
いやはや身も蓋もない言葉ばかりで年下の少年二人に責められ、ベティはしゅんと身を縮こませる。
そこに、漸く復活したとみえる三兄シュベルトが更に追い討ちをかけた。
「ベティ…!!お前、今までどこに居たんだよ?こっちは屋敷を探し回って…(クドクド)」
双子、そしてすぐ上の兄にネチネチクドクドとそれはそれはエンドレスに続くかと思われるほどの長々しく責め立てられて、何時ものように二の句が告げなくなってしまった妹ベティ。気のせいではなく一回り小さくなってしまったような…。
それを、少し離れたところから見守っていた上の兄二人がもうそろそろ頃合だろうと言う辺りで漸く助け舟を出した。
「三人とも、もうそれぐらいにしてやれ…」
「ベティ、君ももうそろそろ私達の忠告に耳を傾けるべきだったね。」
前者は、ベティの頭を撫でながら心配しすぎて加減を知らなくなってしまった下の兄弟三人を長兄が諭す。そして後者は、俯いてしまったベティの顔を覗くために中腰になった次兄がベティに言い聞かせるように囁いた。両者ともにいつの間にか間合いを詰めたのか、先程タックルを仕掛けた双子よりベティの傍に居た。
そしてそれにも気づかない程、今の彼女はどんよりと自分の思考に嵌ってしまっていた。
──私って、いつになっても、駄目だなぁ…。
『ネガティブ来たーッッ!!』
…っと言う、前世の友人の声が聞こえてくるようだった。
こういう時、魂が一緒だからどうやっても私は私なのだと痛感する。
本当に、染々と思っていた。
転生前では唯一だった友人。
これでもか、と言うほどお世話になりっぱなしだった。しかしそれでは駄目だと、いつか恩返しをするのだと、その機会を今か今かと待っていが、結局その恩返しも出来ないままに彼女とは永遠の別れをするはめになってしまい、私はこの世界へと辿り着いた。
こんな経験など今度はするまいと、今世では色々と自分なりに頑張ってみたものの、また結局こういうことになってしまうのだ。
駄目だ駄目だと少しずつ周りからレッテルを貼られた前世の記憶が沸々とわいてきて、どうしようもないあの絶望感が日々近づいてくるようだった。
そして、それは今回も言えたことで…。
胸の中心が突然キューっと狭く苦しくなる。
鼻の奥がツーンとした。
あっダメだ…
そう思ったら、ぽろりと涙が頬を伝っていた。
こんなことで涙が出る自分が恥ずかしくて、私は慌てて下を向いた。
その場に居るのがいたたまれず申し訳なくて、脱兎のごとく逃げようと踵を返し、さっさとトンズラかまそうとした。
が、しかし。私の人生は、そう上手く行く訳がないらしい。
家族勢揃いのこの空間で、ずべっと、とても鈍臭い音を立てて私の顔が床と仲良し…。
──え、どゆこと?
なんて言ってる場合でもないし、そんな余裕ありませんでした。
とてつもなく痛い!!
色んな意味で、イタ過ぎるぅ…!!
〝穴があったら入りたい〟
という場面を、実際体験した私が後に思ったこと。
それは、前世で聞いたことのあった『本当に入りたいと思う訳ない、あれは嘘で例えだ』という言葉を思い出した私だったが、今回のことであれこそが嘘であると切実に思い知ったのである。
もう一度言う、〝穴があったら入りたい〟。
昔の日本人は、良く言ったものである…。
8:了
主人公、暴走。
次回この騒動は収拾させます。
そして父君、母君をだします。
それから、母君の名前もようやっとこさ!!
では、また次話にて…。