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二話 ゲームスタート

「いてて……」

 一瞬身体が浮いたかと思うと数メートルの高さから叩き降ろされる。しかも自分の上からもう一人誰か落ちてきたようで、衝撃が二割増しだ。

「ご、ごめんなさい! 大丈夫ですか?」

 優しい声が俺の身体の上から聞こえてきた。見れば先ほどの金髪少女が潤んだ瞳で俺の様子を窺ってきている。――俺の左手を、ギュッと握りしめながら。

「えと……」

 状況を整理しよう。

 この手が少女を掴んでるということは、転移の際に俺が掴んだのは美恵の手ではなくこの少女の手だったのか? だとすれば美恵は一体どこに?

 とりあえず立ち上がって周囲を確かめる。先ほどの暗さとは打って変わって、眩しいくらいの明るさに包まれているここはどこかの円形闘技場のようだ。蒸し風呂のように人が溢れかえってるせいでよくは分からないが、ここの近くに美恵はいない。

『――皆さん、お静かに。これから真のドリームオンラインが始まります。いいですかもう一度言います』

 混乱の中、中心の高台に現れたのは全身を白い布でおおった人物。布の厚みで身体のラインが分からないが、声からすると先ほどの者と見て間違いはないようだ。

『黙れ』

 ぞっとするくらいにドスの効いた声が会場全体に伝播する。その一声はプレイヤーの感情を制御する効果があるのか、俺たちはその後に何も言葉が出せなくなってしまった。

 痛いほどの沈黙が会場を支配する。

 何なんだこれは? ただのアップデートではなかったのか? 何故こんな目に俺たちは遭わなくてはならないんだ?

『ようやく収まりましたね。では皆さんよく私の話を聞いてください』

 白装束の者は両手を天高くかざし、喜びに満ちた声でこう告げた。


 “あなた達は永遠を手に入れました”――と。


 その言葉にハッとなって現実の時刻を確かめる。

 俺は嫌な胸騒ぎがしながら高速で画面をタップし続けた。そしてようやく表示された現実の時刻は――

「午後五時半……!? そんな馬鹿な!!」

 変わってない。美恵と少女が話している間に確認した時間と。真っ暗になる直前に確認した時間と。何一つ変わっていない――!

 『減速システム』の暴走か、それとも意図的に引き起こしたのか。現実の1に対して0.3だった時の流れはここで完璧に0となったのだ。

『気づいた方もいるでしょうが今この時、この瞬間、現実は停止している。私たちは現実から隔離され、無限という時を得た。そう――まるで夢の中のように』

 再びざわめきが起きた。

 どういうことだ、何が目的だ、いつ帰れるんだ、という質問の嵐。それでも白装束は答えること無く次に進む。

『あなた達は嫌っていた。――今の現実を。あなた達は求めていた、――永遠に続く夢の世界を。そうでしょう? でなければこんな偽りのゲームに赴くことなんてないでしょうから』

 馬鹿馬鹿しい……そんなことがあるわけがない。俺が求めているのは現実への回帰だけだ。覚めない夢なんていらない。

『さて……では夢の中に相応しいお遊戯(ゲーム)を始めましょうか。言っておきますが、これはクリアなんてない、脱出なんてさせない、永遠という刻を持て余す事のないように用意されたゲームです』

 その言葉を合図として、時計の数字のように円状に設置された一二の扉が同時に開いた。どこに通じているかもわからないその扉の奥はひたすらの闇。先を見通すのが億劫になるほどの漆黒で塗りつぶされている。

『もしもあなた達が本当にこの世界の否定を望むのなら一つだけ方法をお教えしましょう。……それは、この世界で死ぬことです。死ねば夢が終わる、しかしそれは覚めるということではなく夢さえ見ない永眠につくということなので、あしからず』

 永眠につく――……それは本当の“死”を意味しているということなのか。すなわちここで死ねば現実でも死ぬ、それを暗示しているとでもいうのか。

 ギュウウウウン!! と勢い良く扉の奥に向かって風が吹き始めた。俺たちを無理矢理にでも扉の奥に進ませるため吸い込むように風が吹いているのだ。

「美恵! どこだ美恵! 返事をしろッ!」

 叫んでも叫んでも美恵の声は帰ってこない。そんな事をしてる間にも扉の近くに居た者からドンドンと吸い込まれ俺もその番が迫ってきている。

「クレハさん! 行かないでください、私一人は怖い……!」

 風の向きに逆らって俺が美恵を探しに行こうとした時、さっきの少女が引き止めてきた。わけもわからない状況に彼女も心底恐怖しているのか、俺をつかむ小さな手は小刻みに震えている。

「く……」

 俺にはその手を振り払うことが出来なかった。

 遂に風の力に負け、俺と俺の手をつかむ少女はそのまま扉の奥へと吸い込まれていく。このまま行った先には一体何があるのか。

 どちらにせよ一二ある扉の内、美恵が入った扉も俺たちが通ったのと同じ事を願うだけだ。


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