#長いにも程があるエンディング(最終話)
#エンディング
あゆみはアイスコーヒーをブラックで。麻美子はグレープフルーツジュース。沙織はキールといきたいところをぐっと我慢してカシス果汁入りのソーダ。愁と言えば冷やした緑茶で…新之介は当然玉露。
自分はミネラルウォーターのボトルを開ける暇もなくそれぞれの飲み物を必死に用意していた冬馬は、あからさまにため息をついた。
よくもまあ、これだけ好みもばらばらでわがままな連中だ、と。
麻美子の事務所との契約が無事に済んだお祝いにと、なぜかみなが冬馬の部屋に集まることになった。沙織からの厳命で必死に部屋を片付け、軽くつまめるものまで並べ、クッションになりそうなものをかき集め。
全員が笑顔で座り込んだのを見て取ると、冬馬は乾杯の音頭を取ろうとエビアンを手に立ち上がった。
「えー、それでは。麻美ちゃんの新しい出発を祝っ…」
当然のことながら、最後まで言い切ることはできなかった。部屋の中では雪駄はないけれど、代わりに飛んでくるのはキャラクター付きの健康サンダル。
「ってえな!!あれほど頭を殴るはやめろっつってんじゃん!!これ以上バカになったらどうすんだよ!!」
「冬バカは底値を打ってるから、いくらぶったたいたってそれ以下にはならない。以上証明終わりだ。わかったかこの冬バカ!」
高らかに言い切るのは、もちろん愁だ。また始まったと周りはみな呆れ顔。それでもお約束のように冬馬は言い返す。
「だーかーらー!!理由もなく殴ることないだろうが!!僕の方が年上なんだけど、これでも一応!!あああああ、今気がついた!この僕こそが最年長じゃん。日本には年功序列という昔ながらの美徳があってだね!」
それを聞いた愁は、構えていたもう片方のサンダルを持って固まった。あの麻美子でさえ肩をふるわせている。
な、何だよと自信なさげに周りを見回す冬馬に、沙織がにっこりと笑いかける。
「あら?冬美ちゃんは最年少でしょう?違ったかしら」
無理やりやらされた女子高生のコスプレを思い出し、冬馬は怒りとか何とかいろいろ複雑な感情から真っ赤になって黙り込む。
「要するに、てめえがこの場を仕切るなんざ百万年早いということだ。わかったか冬バカ!」
勝ち誇ったような愁の言葉に、むくれて冬馬は座り込んだ。
みなの視線は自然と新之介に向けられる。気づいた彼は焦ることもなく微笑み返す。
「それでは、作戦の成功と…麻美子さんを含めたここにいる皆さんの新しい門出に」
穏やかな声とともに優雅に玉露の入ったグラスを持ち上げる。
「乾杯!」
「おつかれさーん!」
「おめでとー!!」
思い思いに声を出し、それを合図にほうっとした笑顔が広がる。そう、ここからまた始まるんだ。麻美子だけではなくみなのそれぞれの生き方が。
「すぐにデビューするの?」
興味津々といった表情であゆみが麻美子を見つめる。憧れと焦燥が混じっているだろうに、それを隠すことなく臆することなく。その健康な若さを冬馬は素直にうらやましいと思った。
言われた麻美子は、集まる視線に戸惑いながらもしっかりと顔を上げた。
「これからしばらくは、きちんとしたレッスンを受けられるようにって研究生として所属することになったから」
使い捨てにはしない、したくはない。そういう事務所の方針なんだろう。それほど大切に育てたいと思わせるものを麻美子は持っているということ。
ようやくここまで来れたという安堵感が、みなに浮かぶ。すぐに察した麻美子は丁寧に礼を述べる。
「まあ、一番の功績者は…」
そこまで言って愁は言葉を切る。拗ねて一人寂しくキャラメルコーンを口に放り込んでいた冬馬は、逆に集まった視線に身をすくめた。
「な、な、何だよ!?僕は何もしてないからな!!」
また健康サンダルが飛んでくるんじゃないかと、べとべとの手で頭をかばう。
愁は新と顔を見合わせると苦笑いしながら口を開いた。
「全くおまえってさ、空気読めなさもここまで来ると天下一品だよな」
「はあっ!?」
この高崎愁様が、めっずらしく白瀬冬馬大先生を褒めてやろうと思ったってのによ。にやにや顔は変わらない。
褒める?何のことだ?
話を理解できずに目をぱちくりしている冬馬に、とうとうみんな笑い出した。
「冬馬さんのおかげです。私を本当の意味で引っ張り出してくれたのは」
麻美子の言葉にかぶせるように、沙織はさらりと付け加える。ロータス・ガーデンから…ね、と。
「ロータス?蓮ってこと?」
そう聞き返したのはあゆみだった。実は白鳥だったって方がしっくり来るんじゃないんですか?醜いアヒルの子は醜くはなかった。本来の美しさを発見された。違うのかなあと。
沙織はノンアルコールのカシスで酔ったのだろうか。頬を少しばかり染めている。冬馬はその方が気になって、つい見とれていた。
「蓮は、水面下で縦横に根をめぐらし、どんな状況下でも清らかな花を咲かせる。生まれついての才能だけではなく、今までを生き抜いたのは麻美子ちゃん自身の力だわ」
ああそうか。周囲との違いに下を向き、手をこまねいて現状を嘆き、いつか本当の自分を誰かが見つけ出してくれるだろうとぼうっと待ち続けたわけじゃない。どんな泥池の中でさえ、彼女は自分の美しさを失うことなく歌い続けた。
そしてここにいる誰もが、あきらめることも知らずにあがいているのは同じ。多数派であろうと少数派であろうと。
それは黙っていても全員の胸に届いたのだろう。優しい沈黙が訪れる。
しばらくしてから、沙織は小さな包みを取り出した。
「わたくしから、というよりも大人たちからのあなたへのプレゼント。ささやかだけれどね。受け取ってもらえるかしら」
目を見開いた麻美子は、促されてそれをていねいに開けた。中に入っていたのは、部屋の鍵。思わず沙織の顔をじっと見返す。
「まあ、広くはないけれど。治安も良いところだし優良物件よ。家賃の出所は内緒、大人に任せて。いつまでもわたくしの監視下っていうのも息が詰まるでしょうし」
「真鍋先生が夜遊びできないのも不便でしょうしね」
これ以上ないくらい邪気のない笑顔であゆみが言い足す。沙織の顔がぴくりと引きつるが、誰もそれにつっこめるだけの勇気はなかった。女っていくつでも女だよなあ。
キーホルダーはだいぶ前に流行ったキャンペーングッズ。冬馬は懐かしさと年月を思って思い出に浸っていた。あれが流行った頃に初めて記事が雑誌に載ったんだった。僕も持ってるもんなあ、あのノベルティ。
そう、決して新品の鍵ではない。使い込まれて傷もある。
それでも麻美子にとっては、ようやく得た一人きりの大切な場所になるだろう。彼女はその魔法の鍵を、そっと包むように両手で持つと胸に押し当てた。
「私も負けないから。フォーシーズンズと大学受験と、両方勝ち取ってやるんだから」
これ以上怖いライバルはいないって存在になれるように。あゆみはそう言って麻美子の肩に頭をつけた。悔しさではなく負け惜しみでもなく、彼女ならやり切るだろう。わかっているからこそ、麻美子もうれしそうに頷いた。
誰もがはしゃぎ、その場の雰囲気に酔った。それは不快ではなく心地よいもの。環境も立ち位置も違いすぎるけれど、同じ戦いを乗り切った者として。
「ねえ、あれ本当にカシスジュースなの?リキュールなんじゃないの?」
かなり盛り上がったミニパーティーのさなか、とろんとした沙織の瞳に心配になった冬馬は新へと耳打ちした。
「どうなのでしょうね。沙織さんはとらえどころのない方だから」
わざと彼女たちに背を向け、ささやき声で聞く。気になっていることははっきりさせた方が良い。
「新にだから訊くけど、沙織先生のことどう思ってるの?あっちは本気らしいよ」
少しばかり彼の表情がたゆたう。彼女との将来を思い描くことは沙織を縛り付けてしまうのでは、とためらいながら呟く。
胸に刺さったほんの少しのトゲをわざと触るように、冬馬はもう一ついいかなと言い添えた。
「僕も誰かと将来を考えるなんてできそうもないけれど、でも…もし僕が新のライバルだって立候補したら、どうする?」
それは…。今の状態の新にとっては冬馬の言葉の持つ意味がわかるのだろう。視線を下に向けて唇をかむ。新之介の本心なんて、沙織よりもわかりにくい。それは彼自身にとっても同じなんだろう。
けれど次に顔を上げた新は、何かを決意したかのように真っ直ぐに冬馬を見返していた。
「立候補は自由だと思いますよ、冬馬さん。けれども当選確率はかなり低いと思われますが」
どういうこと?きょとんとする冬馬に、いつものようにしれっと微笑んで言う。
「沙織さんの僕に対する想いは揺るがないでしょうから。あとは僕自身がそれを受け入れるかどうかにかかっているだけだと思いますので」
涼やかに玉露入りのグラスを傾ける新之介に…冬馬は何も言い返せなかった。
…そうだった、愁よりこいつの方が何十倍もどえすだった…
はああああああああ。冬馬のため息は深く深く、あまりにも深すぎて、そのうち自分でもおかしくなって笑い出していた。
二人の笑顔に、愁が話に割って入ろうとする。
「何だよ何だよ!?俺に内緒で密談か?いい度胸してるじゃねえか白瀬冬馬!」
「何で僕だけなんだよ!?たまには新にも絡めよ!!ったく、気が小さいのはどっちだか」
めいっぱい勇気を出して言い返した冬馬は、当然のことながら愁にヘッドロックをかけられた。暴力反対だあ!!
「ああもう男子ってうるさいのよねえ。こっちは大事なガールズトークしてるんだから。悪いけどあんたたち、今夜はわたくしたちここに泊まるわよ。一晩だって話し足りないくらいなのに」
まあ、真鍋先生も入れてカールズは無理があるかもしれないですけど。聞こえるかどうかぎりぎりの声であゆみがささやく。あゆみのコーヒーだって本当はカルーアじゃないのか!?
知らん顔でスルーした沙織は、てきぱきと冬馬にボストンバッグを押しつける。
「これ、冬馬くんの着替えよね?ちゃんと言われたとおりに作ってあったなんて偉い偉い。仕事道具は持ったんでしょ?」
ちょっ、ちょっと待ってよ。ここは僕の部屋で…。言いかけても聞いてもらえるはずもない。
沙織が言う男子たちは早々に部屋を追い出された。まあ、外の風も気持ちいい。
「何だか、すっかり沙織センセにうまいこと謀られたかなあって感じだね」
冬馬の言葉に、確かになと珍しく愁が同意する。
「さあて、また俺たちはこれから就活だな」
フェリスでもなく電話やメールでもない会話は、愁さえも素直にするんだろうか。のんびりとした夜道に雪駄の足音が少しばかり響く。
「それなんだけどさ」
今なら聞いてもらえるかもしれないと、冬馬は前に言いかけた思いつきを話す。受け入れてもらえるかどうか。けれどたぶんこれが一番現実的だろうし。
「せっかく愁と新がいるんだから、対等な立場で安達の会社と契約したらどうかな。社員じゃなくて、仕事を依頼してもらえば?」
「はんっ?どういう意味だ?」
さすがの愁も戸惑いを隠せない。でも冬馬は、ここだけは伝えようと必死だった。全く新しい環境で新之介が働くのは難しい。それは愁であっても同じことだ。それでも今回の件は依頼をしっかり…まあやり方は別として、しっかりこなせたのだから。
「だからね、安達の調査部だか調査室だっけ。そこから正式に仕事を依頼してもらって、成功報酬をいただくと。それなら安達の社員でもなければ養ってもらうわけでもない。ビジネスの相手として対等に渡り合えるよ、二人なら」
殴られるかと思った。それも、いつもみたいにふざけてじゃなくて真剣に。けれど冬馬はひるまずに二人を見据えた。高望みをするなとは言わない。でも現実に動くのなら安達の援助が不可欠だ。それをこの二人のプライドを保ちながらも受け入れてもらうためには。冬馬なりに考えた思い。前に進みたくても脚が絡まる蛸のようにならずに済むようにと。
同じように黙って聞いていた新之介が口を開く。
「…そう…ですね。一考の余地は…ありますね。ただし」
「新!おまえ」
こんなときは新の方が潔い。わかってるさ、愁は新之介をいつだって気遣っているからこそ心配してるんだ。
それはきっと、罪の意識だけじゃない。人としてかなわないと感じたときから、歳なんかに関係なく愁は新之介をサポートする職務を全うしたいと思ったんだろう。彼の心身の状態がどう変わったとしても。
そんな絆を心底うらやましいと思う。
僕の役目はそれを二人に気づかせること、だったのかな。無事にそっちも任務完了かな。冬馬は、なぜか着替えを詰め込んだボストンバッグをもう一度肩にかけ直した。
そんな冬馬に、聞いてますか?と新の声。
「へっ?」
はなはだ間抜けな声で返答する冬馬に、条件がありますと新之介は言い放つ。
条件って何だよ、条件って。僕は提案者であって、何でいつだってこうも上から目線で物言われて…。
ぶつくさ言い出しそうな彼に、新之介は微笑みかけた。
「白瀬冬馬さんも、創立メンバーに加わっていただかないと」
「は、はいっ?」
「実行部隊がいなければ、この仕事はできませんからね。お引き受けくださいますか?」
丁寧に言えばいいってもんじゃねえ!!僕にはフリーライターというきちんとした本業があって!!
「それだけでは薬代も出ないと嘆いてらっしゃるじゃないですか、いつも」
新の容赦ない追及は続く。相手が悪かったかも…しれない。冬馬は言い返せない。
「幸い僕らの住居には事務所を構えるだけのスペースもありますし」
だから一介の零細著述業者にはなんも関係のないことだし。
「冬馬さんの個室も準備は整っておりますから、ちょうどよかったのではないでしょうか」
個室って何?個室って。僕はちゃんと安マンションとはいえども、自分で家賃を払って部屋借りてるし。
何とか言い返す冬馬に、あきれ声が飛んでくる。愁だ。
「おまえさあ、まだ気づいてねえの?冬馬さんのお部屋の鍵はどちらですか?」
えっ?いつものように取材バッグの内側に突っ込んであるし…。
あわててカバンをまさぐるけれど、慣れたあの感触がない。ないっ!?まさかあのキャンペーングッズ付きの。
「いやあのそんなはず…ないけど…、ないと思うけど。キーホルダー麻美ちゃんとお揃いだなあってちょっとだけうれしかったんだけど、まさかねえ」
「ああ、あの鍵おまえんちのだから。当然じゃん。気づいてない方がおかしくね?」
何で何でだから何で!?あの部屋の持ち主は僕だよ!?
「名義変更の件については、麻美子さんが後見人付きの未成年ということもあって沙織さんへと移しておきました。事後承諾になりますが」
事後承諾じゃねえよっ!!だからそんな話、聞いてないから!!
「思ったより近くてよかったですね。こんなことなら、今までもフェリスに通わずに直接お邪魔すればよかった」
言ってる意味がわからないんですけど!このカバンも大掃除も、そのためだってのか!?
「往生際が悪いにも程があるんじゃね?白瀬冬馬」
「だから!!何で僕がおまえらと一緒に住まなきゃならないんだよ!?」
それは…。言いかけて新之介は言葉を切った。思わず冬馬も彼を見る。
「あなたが僕らにとって必要な、かけがえのない友人だからですよ。冬馬さん。こう呼ぶのを許していただけるのなら」
静かな微笑みに、冬馬は目を泳がせた。照れてしまって何も言えないだなんて悟られたくない。
「ま、そういうことだ」
愁に肩を叩かれ、納得しかけて歩き出した冬馬は……さすがにもう一度だけ叫んだ。
「ちょっと待ってよ!!よーく考えたら理由になってないじゃん!それって僕を使えるだけこき使おうって魂胆!?」
やっぱだめか。ばれたみたいですね。ささやき合った二人は、振り向きざま極上の笑顔を浮かべた。愁の手には一枚のDVD。
「これが何かわかるかなあ?白瀬さーん」
わからない!わかりたくもない!!冬馬にだってイヤというほど中身はわかるけど、けど…。
「ネット配信業務を僕らが引き継ぐことも視野に入れていたんですよね。在宅勤務という手もあるかなと」
それはかるーく犯罪って言うんじゃ…。新之介の言葉に青ざめる。
「全世界に女子高生コスプレ配信かあ。勇気あるなあ、白瀬さんって」
脅迫罪って知ってるのかなあ、こいつら。言い返す元気も、もはや冬馬にはかけらもなかった。
「じゃあ、商談成立ということで。良いアイディアもいただいたことですし。これからは仕事上のパートナーとしてもよろしくお願いいたします、冬馬さん」
は、はあ。呆然とするしかない。
たどり着いたマンションは、冬馬が今まで住んでいたもとい!冬馬の住む部屋とは段違いに立派だった。思わず見上げてしまう。
「人生あきらめも肝心だ」
「愁に言われたかねえっ!!」
ぶん投げたボストンバッグは、愁がさっさと取り上げてすたすた先を歩く。先と言ってももうそこは豪華マンションのエントランスだ。
「ようこそ、マイノリティの巣窟へ」
優雅に招き入れる新之介にうながされ、一歩足を踏み入れる。引き返して走って逃げるなら今だ。何かどっかが間違ってるぞ!!絶対に!!
「ねえ、新。そう言えばさ…EXエージェンシーから取り返すって息巻いてた五万円は?」
不意に思い出して、冬馬は新之介に問いかけた。隙を作って何が何でも逃げ出してやる!!
しかし新は、これまたしれっと涼やかな声で応えた。
「ああ、あれですか。ちゃんといただきましたよ。安達冬美ちゃんの出演料として、五十万ほど」
はいっーーー!?ホントに十倍!?どう考えたってこいつらの方を取り締まるべきだ!!
腕をがっしりと掴まれた。逃げられない!?
そのとき、聞こえるかどうかの小さい声で新之介が呟いた。
「僕らを助けてくれたのは冬馬さんです。感謝してます。高崎には…僕がこんなことを言ったなんて内緒にしていてくださいね」
新…。冬馬の抵抗する力が抜けたのを確認すると、彼はエレベーターへ向かった。
後ろ姿を目で追う冬馬の頭上に、ずしりとボストンバッグが載っけられる。
「おもっ!!重いから!それ重いから言っとくけど!」
「一人になんかしておけねえよ、白瀬冬馬っつう俺たちの命の恩人をよ。こんなこと、新にはぜってー言うなよ」
愁の呟き。
何だよ、こいつら。これじゃ、断れないじゃん…か。
冬馬はこみ上げる何かをあえて知らん顔しつつ、勝手に話を進めるな!!と怒鳴って見せた。
顔を見合わせて振り向いた愁と新之介は、苦笑いでそれを受け止める。
「業務内容はともかく、会社名は決めました」
さすがやること早いね。新の言葉に愁がにやける。
「MSSでどうでしょう?」
何の略なの?単純な冬馬は思わず身を乗り出す。
「マイノリ・システム・サービスでしょうか。僕らには合っているかと思われますが」
どえむが一人にどえすが二人、確かに合ってんじゃね?耐えきれずに愁が吹き出す。
ねえあのそのだから、どえむって誰なわけ?
確かめる必要もないと即答された。これからの生活があまりにも容易に思いやられる。
冬馬はこれ以上ないくらい深く深くふかーーーくため息をついた。
<了>ご愛読ありがとうございました。
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