下心WAR!
俺は到着した紅葉旅館に入って驚いた。
外装こそは見たことがあるのだが、館内は俺の想像を超えていたのだ。
まず目に入ってくるは、中庭にある庭園。
そこには、たくさんの花が咲いてあるが、
やはり桜が、溢れんばかりに春を主張している。
何より、その庭の中には川や池も完備されていて、趣を感じる。
さすがというか……。
お嬢様に聞くと、俺たちは既に予約を取っているらしく
ロビーの受付は要らないそうだ。
そんな中女将さんが現れて、わざわざ3-3のみんなに挨拶をする。
何人かは知り合いらしいが、男性陣は女将さんをみてほうけている。
「久しぶりですね……いっらしゃいませ女将の真野です、
今年もどうぞ良しなに」
にこっと微笑むその顔は色気を宿していて……とんでもなく美人だ。
やっぱり年上の色気は良いよね!!
げへへへっ――――うっほん!
そんな中、3-3の男子はいい意味でも阿呆なので
「女将さん! アドレス! アドレス!」
「あの……えっと……」
「お前ら! 女将さんのアドレスが欲しいか~?!!」
「「「「「うぉおおお!!」」」」」
「実力を示せ、第一回? 女将さん争奪戦争―――開始!」
なんてのをクラスの男子ほぼ全員、ロビーで戦争をおっぱじめようとする。
しかし、それは俺にも参加する資格があるのだろうか。
ちょっと、俺も混ざって――……
とは、思うのだが…鳥肌がぶわっと体に出来た……。
こういう時の勘は当たる、死ぬ前に辞めておこう。
そう思い振り返ると、
我がクラスの麗しの女性陣が背景に炎を宿して立って居られた。
こちらもほぼ全員が修羅化しておられる。
あぁ…おぞましや。
良かったぜ、あそこに行かなくて。
「伸……少し行こうとしただろう?」
ゆらりと、近づいてくるのは佳織。
手には、キラリと光る…裁縫の針か?
おいおいおい、冗談じゃないぞ!!
「節操無しの伸には鉄拳を――!」
さらに、後ろには拳を布で巻いている麻美。
さすが、趣味はボクシングなだけあるな。
拳に気を遣って……って馬鹿ッ!!!
2人の修羅が俺に近づいてくる。
俺は後退しながら、他の男子の様子を窺うが……葵が凄い。
「落ち着いて! 徐々に包囲を狭めていくのよ!」
後方で1つ1つ、完璧に指示を出していく。
そこで、声が聞こえてきた。
「ふふっ…私の顔に泥を塗ったあなたには、本当に顔を泥に沈めてもらうから」
「え?辞めて…お嬢様、俺はまだ死にたくない――あっ」
あっ!?何があった!!
「坊ちゃま? メイド殺人術を知っていますか?」
「ぎゃああ! メイドにメイドに殺される! なら、最後に…大島死ね!」
なんで、俺の名前を最後に出すんだよ、聞こえてるぞ!
「(よそ見した…!)おっと、手が滑った」
俺がよそ見をしたからか、大げさに手を動かす佳織、針が飛んでくる!
それを反応が遅れながらも、間一髪で避けた。
後ろ振り返り、壁にぶつかって落ちた跳ね返った針を見ると……
な?ダミー…だと?
それは先が全く尖っていない針だった。
「「あほっ!」」
麻美と佳織の2人は俺の両手を、抱きしめる。
あれ、俺お仕置きされないのか?
何か凄くラッキーだ、というわけではなく。
部屋で絶対に小言を言われるだろう。
戦場を見ると既に、葵によりある程度だが、沈静化されていて男子は生ける屍となっている。
「うぉおおお! おか…女将のアドレス!」
まだ粘ってる奴が居るぞ。
……タフすぎるだろう、優勝はあいつだろうなぁ。
そんな騒動もあったが、各々部屋に案内された様子だ。
結局、女将はアドレスを教えてくれなかったらしい。
俺の部屋は、葵と佳織と麻美。
男1人に、女の子3人……。
―――別に変なことをしたりはしない、というかしたら殺される。
情けなくて……泣いてるんじゃないぞ。ゴミが入ったんだよ!
部屋でお茶を用意しようと思うが――
家から送る、荷物のことだろうか?
お祖父様から電話がかかってきた。