キザ男
☆
俺は少し舌打ちをした。
それなりに近く、そして入り組んだ場所を選んだはずだが……
大島はすぐに追いついてきた。
「もう少し、遠くを選んでも良かったか」
後ろには班員という名の部下を引き連れて紅葉旅館を目指す。
いや~久しぶりに人を殴れてすっきりしたかもな。
そんなことを思いつつ、手を見る。
拳は少し、皮がめくれていた。
「慶様!」
部下の1人が俺を呼ぶ。
「なんだ?」
「大島伸弘……あいつは少し危険です」
「そんなこと言わなくたって、分かってんだよ!!」
笑いながら、背中を叩く。
「すいません!」
後処理は、他の部下にやらせて居るが、その報告を聞く限り
3-3組の連中は少し厄介なようだ。
護衛や執事の連中が強いのはある程度把握していたが……
念のために用意していた、俺の戦闘部員までやられるとは思ってもいなかった。
――何とか、逃亡は成功したらしいが
それより俺が驚いたのは、
大島が戦闘部員第1隊の副リーダーを倒してここまでやってきた事だ。
報告によると、腹部を強打した事による、気絶らしい。
ぼーっとそんな事を考えながら歩いていると、電話が鳴る……
「もしもし」
「慶様!大島伸弘の情報を色々と得ました」
諜報の奴からだった、取り合えず当たりだな。
「そうか、良くやってくれたな。その情報は至急こちらに送ってくれ」
「了解しました」
そこで電話が切れる。
確かに、ただ人を殴るだけの俺は、
人を護衛をする大島には勝てないだろう。
ただ、情報なら……そんな俺の切り札になりかねない。
俺は自分のこのやり方が好きだ。
ずるいと思われたって別に構わない。
いかに自分が楽を出来るか――だろう?
そのために勝率を上げるなら、他人を調べるなんて当たり前だ。
俺自身の情報はかなり限られているはずだし。
そこでメールの受信とともに、俺は笑みをこぼした。
☆
あの時、私たちは食後に、皆よりも少し先にレストランを出た。
青崎さんと池上さんも外に出るらしく、一緒に外に行く。
それにしても皆、少し機嫌が悪い。
伸弘は学園では珍しい転校生なので、
ここぞとばかりにいろんな人と話していた。
池上・青崎さんの所の従者と特に仲が良い様で私たちをそっちのけで、
男と話しに花を咲かせている。
まぁ……私たちが、紅葉旅館をみんなと宿泊するのは伸弘のためでもある。
上手い事馴染めれば、と。
そんな必要なかったかもしれない。
しかし…伸は結構社交的なことに気が付いた。
なんと言うか、人と接する境を知っているかのよう……
深すぎず、浅すぎずというやつだ。
ッチ……案の定伸達は私たちが外に出たことを気付いていない。
そこで――――まるで、出たところを待ち構えていたかのように、
何人かの男が現れ、青崎・池上のお嬢様は引っ張られてしまった。
「待て!!」
「待ちなさい!!」
私と麻美は叫ぶが、男たちは軽々とお嬢様方をさらい車に乗せる。
池上・青崎のお嬢様は、抵抗するが―――……
「お嬢様!乗ってください!」
きっと、青崎・池上のどちらかの車だろう。
そう思って、その車に乗り込んだ――が違うかった。
どこかで止まったと思えば、そこはわけの分からない路地裏。
私と麻美は恐怖したが、男たちは私たちに何もしてこない。
それどころか、何かを他のものに気をとられているような……
「やめろ!」
そこで、あのキザ男の長谷川と会った。
「目を瞑っていて下さい」
それだけ言うと、後は音が聞こえてくるだけ。
「なんだ、てめえ?」
「俺か? 俺はだな……――長谷川だ!」
その会話ははっきりと聞こえた。
「お嬢様!!」
しばらくすると、伸の声が聞こえてそこで安堵したのを覚えている。
――あの男たちはどうしたのだろうか。
クラスの誰かが、任せてくれといっていたけど……大丈夫だろうか
「お…様? お嬢―――様? お嬢様ッ!!」
「うんぉお?」
変な声が出てしまう。
パッと顔をあげると、目の前には和風の旅館が目に入ってきた。
紅葉旅館に着いた様だ、取りあえず今日は楽しみとしよう。
そう思い、今日あった嫌な出来事を脳から削除した。