歩行
「2人とも大丈夫でしたか?」
「麻美様、佳織様! 良くぞご無事で」
そんな声が路地に飛び交う。
「うん。ありがとう」
「すいませんでした」
「そして、相変わらず麻美と佳織はクラスメイトに対してクールなのだが、
心なしか仲良くなってきているように俺は感じた。
「本当に大丈夫ですか……お嬢様?」
俺は気になって2人の顔を覗きこむが、
「「うんっ」」
一応は、答えてくれるのだが目はあまりあわせてくれない。
それほど怖かったのだろうか、いや怖かったのだろうな。
再び歩く一同の最後尾に俺とお嬢様方。
周りの皆気を遣ってくれているらしく、わずかながら距離は離れている。
俺は――この2人からして、長谷川がどう見えたのか気になった。
「お嬢様から見て……あの長谷川はどう見えましたか?」
「気になるのか?」
佳織は、少しだけ顔をあげて、俺を見た。
……気にならないといえば勿論嘘になる。
「ええ、もしかしたらお嬢様方の将来の花婿になるかもしれませんからね」
本当は、こういうことが聞きたかったのではなく、本当は…って
まぁ、そんな事は、俺が聞いても意味は無い。
「それは男として、私たちがどう思うか……という事でいいですか?」
先程まで、あまり元気の無かった麻美が、急に喋りだした。
これには、凄く驚いた。
「いや、顔はいい男だな」
佳織は、目を遠くに見据えて俺に話しかける。
「ですね」
短い返事だが、それだけでお嬢様方がどう思っているか分かった。
やはり男として、少なからず魅力を感じているのだろうか。
「……」
ん?これは……俺まさか嫉妬してる?
いやいや、違う違うぞ!
俺は嫉妬なんてしていない、と言いたい所だが少なからず、
結婚はしないと言っていた2人だが、
本当は結婚する気あるのじゃないのか?と疑いたくなる
回りくどい言い方だが、要するに俺は不満に思っているということだ。
うむ、自分でも変な感じで、落ち着かない。
そんな俺の様子に気付いているのか、居ないのか、2人は話を進める。
「それに、長谷川とか言う奴戦う事にも慣れていたみたいだな」
「まさに……諸刃の剣ですね」
おい、明らかに違う言葉が飛び出してきたぞ。
「お嬢様……もしかして鬼に金棒の事ですか?」
「んッ!!それが言いたいのです」
時よりこういうミスをするのが麻美の面白いところだ
なんか不満とかも、吹っ飛んでいったかも。
「麻美……だめな子!」
佳織が得たいの知れないものを見るような目で麻美を見る。
「だめじゃないです! 間違えただけです!!」
あまりリアクションしない麻美も、
だめな子扱いされてさすがに大きな反応を示す。
「まぁ…お嬢様が気に入ってるなら、俺はそれでも良いんですけどね」
思ってもいない事を、口から発す。
「む…? それは私たちがあいつの物になっても良いと?」
佳織が珍しく噛み付いてくる。
「いえ、正直に言うと、あまり嬉しくは無いですね」
少しだけ素直になって、言ってみた。
「「――なッ!」」
麻美と佳織は顔を合わすと、俺から顔を背けてしまった。
え……今そんなに、俺だめな事言ったか?
そのまましばらく、
変な2人と俺は、一緒に少し距離の開けた一同と紅葉旅館を目指す。