全速全身、戦闘も専属係の嗜みです。
「お嬢が居ない!!」
それは途中のレストランで昼食をとり終えたてだった。
外に出ると、そんな声が聞こえてくる。
同じクラスの池上というお嬢様がいなくなって居るらしい。
「それは大変ですね…お嬢様? ……お嬢様?!」
伸弘も辺りを見回す…居ない。
ドキンと、心臓が高鳴る。
(そういえば…声が聞こえない……)
パニックなら無いように葵が指示を飛ばす。
その指示は的確で、伸弘と何人かの護衛・専属係・執事が捜査に当たる事になった。
『他の子は私たちに任せて!』
それを聞いて、クラス総勢50名の中で
池上・長瀬・橋田・青崎の4人のお嬢様が行方不明。
大事には出来ないために、取り合えず一旦伸弘たちの捜査係が辺りを探す。
するとそこに男たちが現れた。
「ここから先は行かせられませんね」
「おいおいおい…相手が悪いんじゃないか? オッサン!」
1人の護衛係が噛み付く。
「そうです…ねッ!!!」
そういうと刹那―――蹴りが腹部に飛ぶ。
だが、護衛係はそれを腕で受け止めていた。
男たちは総勢3名。
こちらは、護衛2人と執事1人と専属係2人の総勢5名。
「1人先に行け!」
1人の護衛係が言う。
「「「「伸弘!!」」」」
伸弘は呼ばれるがすぐに、走り出していた。
☆
「潤一郎様!」
慌しく魔池流が理事長室に入ってくる。
「慌てるな!」
一喝!
「…長谷川動き出しました」
少し落ち着いたのか、魔池流は冷静さを取り戻したようだ。
「なかなかに早いが想定内の範囲……他家には連絡済みじゃ」
動いてくる事は殆ど確定している。
相手が取れる限りの動きに対して、それなりにこちらも手を打っているのだ。
その手の内にまず、クラスメイトの家に細かい事も連絡を入れる事。
そして、紅葉旅館が相手にばれたのもこちらの誘導。
こんな整った状況で、伸弘相手に噂など流せば明らかに怪しい。
こういう世界は信頼が命だ、長谷川は社会的に死ぬだろう。
恐らく相手もそれを想定して動いてくる。
「佳織お嬢様、麻美お嬢様、青崎のお嬢様、池上のお嬢様の4名行方を眩ましたそうです」
やはり……
「場所の把握は既に出来ておる、長谷川の動きを確認したい。何かあれば護衛団をすぐに出せるようにはしてあ る」
すぐ近くに待機させてある。
数もそこそこながら、質も半端ではない。
「伸弘さんが、1人向かっているそうです」
「やはり、足止めされたか?」
こういう事態も想定済み。
「4対3。数は優位ですが、相手はそれなりの経験者のようです。」
「池上・青崎の者は負けんわ。」
☆
全力で走っているので、息が苦しい。
だが直感だが、こちらの方に居る。
こういう時の危険な直感は、事故以来外れることが無い。
「ストップ!」
若い男が、手を前にかざす。
「邪魔だ!!!」
伸弘は、焦っていた。
もうすぐそこな気がするのだ…確かではないがこの勘は頼りになる。
「邪魔すんのが俺の仕事!!」
そう言い切ると、顔を狙って蹴りを繰り出してくる。
これも全部長谷川の仕業か…でも何故お嬢様方は…。
そんなことを考えてる場合じゃないのは分かっているのだが…。
取り合えず、蹴りを腕を使って弾く。
(時間が無い…一撃で意識を持っていくしか……)
止められると男は、
スッと構えて蹴りやパンチを使い、間合いを詰めさせてくれない。
何よりスピードが速いので、弾いたり避けたりするので精一杯だ。
「ふッ!」
胸を狙った拳を避けながら、相手の腕を右腕で捕らえて、
勢いを使ってこちらに引っ張る。
体勢を崩しかけたところで、素早く屈んで足を払う。
「し…まっ…た!」
倒れたところを…
「時間が無い、許してくれ」
鳩尾を狙って、上から下に踵を振り落とす。
「――ぐあッ…」
意識を遮断する。
そこで携帯に連絡が入る。
先ほど分かれた護衛や執事達からだった。
大島・青崎の両お嬢様は見つかった。
というわけで、こちらに至急援護しに来てくれるらしい。
ただ、立ち止まる暇が無いので後ろから追ってもらう形となった。
更に、走りながら
集中して耳を澄ますと、遠くから声がわずかに聞こえる。
「やめろ!」
低くも無く、高くも無い、声からでも良い男と分かる声が。