長谷川の野望
「別に麻美が悪いわけじゃねーよ。むしろ、お前に…それに他の2人にも…怪我無くて本当に良かったな。」
「いえ、でも伸が怪我してたら…」
「ありがとう……それと、皆に謝らないと…ごめんなさい。」
伸弘はリムジンに居る全員に謝った。
「それで…なんで麻美が相手を引っ叩いたんだ?」
普段は温厚な麻美が、相手を殴るなんてよほどの理由だ。
「それは…あのチャラ男が伸弘君に貰ったキーホルダーを踏み潰したからよ。」
葵はいらいらしているのか、
リムジンの中で伸弘と2人の正面で貧乏ゆすりをしている。
「そんな事で…―――!」
「そんな事じゃない!!」
佳織が、隣から伸弘を怒る。
機嫌が凄く悪い佳織は、とんでもなく怖いのだ。
「あのぬいぐるみやキーホルダーは…お前から貰った私たちの初めての贈り物なんだ。それをそんな事なんて…伸弘だけには絶対に言って欲しくない。」
佳織はギュッとワンピースの裾を握り締めている。
表情は暗くて分からない…。
伸弘は、ゆっくりと言葉の意味を確かめた。
「…そうか……俺は幸せだな……本当ありがとうな!」
はにかみ笑う伸弘の顔は、3人をキュンとさせるのには充分な威力だった。
☆
耳につけている小型のマイクから、車の音が流れ込んでくる。
車は車庫にある少し大きめのリムジンを用意した。
(しかし…伸弘の奴。旧友の孫娘にまで手を出しよって。)
橋田潤一郎は暗闇の部屋に2人で居た。
「して、長谷川の」
そう呼ばれた長谷川は、顔を上げる。
「孫娘が欲しいか?」
「はい!」
長谷川は婚約の交渉に来ていた。
じっと見つめる潤一郎の目には、何もかも見透かすほどの眼力が宿っている。
「打算で結婚してもいい事なんざ一つも無いのだがな。」
「……この世界では、必要なものですから。」
それはそうだ。
この長谷川も、そういう世界に居る。
「断わるといったら?」
「邪魔なものをそぎ落とすだけです。」
余裕のある笑みで、長谷川は言った。
「…大島伸弘は一筋縄ではいかんと思うがな」
「ごもっとも。」
しばらくして、長谷川が部屋から出てきた。
木の柱をガンと蹴り飛ばす。
「リア充は死んでしまえ!!!!!……取り合えず、佳織と麻美はどんなことをしても手に入れる。」
☆
明日からは宿泊祭。
そういうわけで、葵を送って帰宅した。
『じゃ、明日ね。』
『迷惑かけたな…』
『気にしてないわ、それよりも私もこれ佳織に負けないように、一生大事にするから』
ぬいぐるみを持って楽しそうに笑う葵は、手を振りながら帰宅していった。
車で待っている2人も心なしか少し機嫌が直っているように感じた。
「どうしたんだ?」
「「別に!」」
帰ると宿泊祭の用意が3人分されていたのだ。
メイドさんのおかげだろう。
2人を先に風呂に入れて、就寝の用意を終える。
合間に携帯を開くと、葵からメールが届いていた。
『伸弘君、2人のフォローきちんとするのよ!ちなみに、明日の宿泊祭楽しみにしてるから!』
そのメールをみて、何のフォローかよく分かった。
あんな怖い思いをしたのだ。
―――伸弘も風呂を終えて、大広間に行くと麻美と佳織がテレビを見ていた。
「そこまでー!」
伸弘がテレビを消すと、麻美と佳織は素直に就寝のために部屋に向かう。
2人はうつろうつろしていて、目は眠そうだ。
「今日は色々あったけど…楽しかったぞ。」
伸弘は、意識のあまり無い2人にそう言う。
すると麻美は、
「一緒に寝てください。」
手には今日貰ったぬいぐるみを左手に抱いて、伸弘の腕を右手で抱いた。
「ちょっ!!」
「それは良いアイデアだな。」
佳織も麻美と同じように片手にぬいぐるみ、もう一方では伸弘の腕を抱いて
伸弘の部屋に向かう。
「「今日だけ!」」
麻美と佳織があまりにも子供みたいで、伸弘も
「しゃーねー。今日だけだぞ?」
そう言って、3人は一緒にベットに向かって行く。
明日は宿泊祭、今日は色々あったけど明日が楽しみな夜だった。
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