礼はいつも心から
「その子に、触るな!」
麻美の胸倉が掴まれかけた時…。
「はぁ…はぁッ…何やってやがる!」
伸弘が到着した。
「お前この女の子のツレ?」
1人頬を押さえ、残りの2人を後ろにつれて、伸弘に近寄ってきた。
「そうだ。」
「お前のツレにさー…殴られたんですけど!」
「そうか、それはすまなかった。」
「何でお前が謝るんだ!悪いのはこいつだろうが!」
後ろからは佳織の怒声が飛んでくる。
(魔池流さんが来るまでは…落ち着いてくれ!)
そこでようやく、3人組の後ろから魔池流が到着した。
「お嬢様方…こちらへ。」
「離せ、魔池流!伸が囲まれてるんだぞ?離せ!命令だ!」
佳織が暴れている。
「お嬢様…落ち着いてください。」
そう言うと、佳織は少し落ち着いた様子で、
魔池流と少し離れたい所へ向かった。
「ッチ…マジでウゼえな?お嬢様かなんか知らねえけど…やられた分は返させて貰からな。」
手を振り上げる、握った拳は一直線に伸弘の顔を狙ってくる。
スカッ…拳は空を切った。
「うちのお嬢様方がすみませんでした。」
先ほどとは変わって、丁寧に一礼する。
ブンッ。また拳が空を切る。
魔池流の護衛術を学んでいる伸弘は、こういった対処方法もキチンと心得ている。
「ウゼえ……ウゼえ…おい、お前らも手伝えや!」
3人に群れた奴らは、伸弘に向かって来た。
「申し訳ないとは思いますが…うちの傲慢なお嬢様方にちょっかいかけた貴方達も運が悪いと思いますよ。」
少し後ろに下がって距離を取る。
さすがに3対1は分が悪い、
ましてここで暴力など振れば確実にお嬢様方に迷惑がかかる。
それだけは、絶対に避けたかった。
(まだか…早く!!)
じりじりと縮んでいく、距離。
3人のお嬢様方は後ろで、不安そうな顔をしている。
「こらぁ!そこの3人組!」
館員が現れた…4、5人を後ろに引き連れてこちらに向かってくる。
一番先頭には先ほど見たペンギンの男だ。
「やっべ…逃げんぞ!」
「げへへ…」
「おう!」
3人は走り去った。
(げへへ…って何だよ。)
実は走っている最中にペンギンの館員に会ったのだ。
そのときは、葵から相手の情報が詳しく送られてきたので…
簡単に事情を説明して、人を集めてもらった。
「「ありがとうございました!」」
伸弘と魔池流は、もう一度出る前に、館員さん達に礼を言って水族館を出た。
その帰りは車。
ここまで、葵、麻美、佳織は礼を言った時しか口を開いていない。
「すいませんでした。」
麻美が、沈黙を破った。