run and run
夕方4時過ぎ。
「ここに来たかったのか?」
伸弘達は最近、壱花市に出来た。
【イチカシーワールド】にやって来ていた。
ちなみにここの水族館は取り合えず様々な生き物がいることで評判だ。
珍しい魚とかも居たりするらしい。
「行くわよー!」
「楽しみだな。」
「水族館は記憶する限り、初めてですからね。」
葵を筆頭に中に入っていく。
「お、おい!!」
まず、入って目に付くのは超巨大水槽。
本物の海を切り取ったように、イメージしているらしい。
「3人とも引っ付きすぎだ。」
佳織と麻美と葵はぺたっとガラスに顔を引っ付ける。
「しかし、これは凄いですね。」
麻美が実に、興味深そうに呟く。
「だな…ここまで大きい水槽は俺も始めてだ。」
中には、ジンベイザメやエイなど様々の魚が遊泳している。
「ほえー。」
「私は今までに水族館は何回か来たことあるから、知ってるけど、これは…やっぱり凄いわね。」
佳織は言葉も出ないらしい。
「葵も何回か来たことがあるのか。」
「私を、この2人と一緒にしないでよ…。ただ、友達とは来た事なかったけど。」
葵が指差す先には、また引っ付いて魚を凝視する2人。
「伸、伸!!あの大きな魚は?」
麻美が指差す先はジンベイザメ。
「俺も友達と水族館は初めてだな……麻美、あれはジンベイザメだ。」
麻美の目がキラキラしている。
佳織はもう既に、巨大な水槽に釘付けで他の事は目に入って居ない。
しばらく、水族館内を歩く。
「ペンギンだー!!」
佳織が、館内を館員の人と散歩中のペンギンを見つけた。
「凄い、すごーい!!ちっちゃくて可愛いわ!」
「触ってもいいですか?」
「構わないですよ~!」
館員は、180前後の身長の大きな男だった。
(似合わないなぁ…。)
そんな可愛い出来事を体験してか、3人の笑顔はほくほくで、
館員さんとペンギンに手を振っている。
近くに、座る席があったので一回座ることにする。
「ちょっと飲み物買ってくる、何か飲みたい物は?」
「紅茶でお願いするわね。」
「コーラがいいな。」
「りんごジュースでお願いします。」
(一応魔池流さんに連絡しとくか。)
プルル、プルル。
「魔池流です。」
「伸弘です。お嬢様方の飲み物買いに行くんで頼みます。」
「了解しました。」
☆
残された3人は、今日の感想を話している。
「しっかし、今日は充実したな。」
ニコニコ顔の佳織は中々にレアだ。
学園の人が見れば、凛とした佳織とのギャップに悶えるだろう。
手には伸弘が取ったウサギのぬいぐるみが握られている。
「ほんと、あなた達の専属係が欲しいわ。」
葵も伸弘にとって貰った、キャラクターのキーホルダーを手にとって眺める。
「あげませんよ…でも、沢山の思い出が出来ましたね。」
「やっほ、お嬢さんたち!」
3人の男が、3人に絡む。
「へーい暇してる?」
「げへへッ…。」
1人の男が、麻美に触る。
「――――ッ…。」
麻美は嫌がるが、何も出来ない。
それどころか、声すら発せないのだ。
「おい、麻美に触るなッ!!」
佳織が怒声を上げる、葵は隙を突いてメールをする――…。
そんな中、1人の男が麻美が取ってもらったキーホルダーを踏み潰した。
「あ……ッ」
「ん?悪い、悪い。でもこれより可愛い奴買って上げるからさ!」
パチンと平手打ちが飛んだ。
「……可愛いからって調子乗るんじゃねえぞ?あ?」
☆
しまったと、伸弘は走っていた。
メール着信1件、葵からだった。
開いて、読んでみると、
「ピンチ」
記号も絵文字もないそれは、何かが起きたと伸弘に教えた。
持っているジュースを抱えて、走る、走る。
(くっそ…俺が目を離したからだ!!)
同時刻、魔池流も走っていた。
内容は伸弘と同じ。
伸弘から連絡を貰っているのに、油断した。
少し目を放した隙に……
こんな失態は執事として許されない。
初老の体に鞭を打ち、走る、走る。