デリカシーは大事だね。
「じゃあ、用意できたら大広間に向かいます。」
それだけ行って伸弘は、部屋に戻る。
実家から、荷物は全て送ってもらった。
―――ピピピピピー。
携帯が鳴り響く、魔池流さんからだ。
俺が長橋にちゃんと通うことに決まったあの日から、
魔池流さんには様々な護衛術やお茶の入れ方、庭のいじり方などを学んでいる。
ただ…あの人は戦闘になると、怖い。
「もしもし。」
「魔池流ですが、伸弘さんですか。」
「ええ、そうです。」
それにしたって、この会話は何かおかしいだろう。
「町に行くそうですね?」
少し声色が変わった気がする。
「どうかしましたか?」
「お嬢様方は、世間に疎い方です。なので宜しく頼みますね。」
本当に律儀な人だ。
心の底から、こんな人になりたいと思う。
「了解です。」
「私は後ろから、着いていくので安心してください。」
3人を1人で護衛するとなると、中々難しいものがあるので安心する。
「では。」
そう言って、魔池流さんは電話を切った。
服を選ぶが、防刃ベストはちゃんと着込む。
何が起きるのか分からないのが、怖いところだ。
出来れば、一生使いたくない。
「よっし!行くか!」
そう言って、伸弘は大広間に向かった。
☆
伸弘は用意に向かっている。
あれから、少し時間が経った。
「それにしても伸弘君って、何でも出来るのね~。」
葵が感心したように頷く。
「ある程度は、魔池流が仕込んだからな。」
どうだ、といわんばかりに佳織は葵を見る。
「今では、完璧…とは言えないですが…最高の専属係です。」
完璧でないのは……デリカシーのかける言動と行動が多いのだ。
例えば、佳織が
『洗濯物乾いてるか?』
と聞けば、
『下着も乾いてるぞ!ついでにパンツのゴム緩んでたから直しておいた。』
とか…変に気が利くから逆に怒り難い。
また、あるとき麻美が、
『なんだか、少し熱っぽい気がするんです…。』
と言えば、
『どれ?でこ貸してみ…。』
と言って、いきなりデコををひっつけたり…。
伸弘曰く、お姉さんが居るのでそうなってしまうらしいのだが、これはずるい。
麻美と佳織、それぞれ思い出して、顔を赤める。
「「デリカシーが…………。」」
「ねー伸弘君、私に頂戴よ!」
「「だめッ!!」」
☆
「用意できたぞー。それにしても何がだめなんだよ?!」
いきなり、部屋に入ってくる伸弘。
この人にガールズトークなんて、関係ないんです。
ちなみに、デリカシーが…………のところから聞こえてました。
「「「なんでもない!!」」」
それぞれが、否定する。
薮蛇だ…何も言わないでおこうと伸弘は決意する。
「じゃ…そろそろ行こうか。」
壱花市は県下最大の面積を誇る。
同じ、市内でも遠いところは遠いのだ。
ちなみに3人が車を使いたくないと言うことで、
午後2時、自宅から最寄の駅へ向かう。
無論、葵の家には魔池流さんから、連絡してもらっている。
その途中。
「伸弘君?」
「どうかしたか?」
まだ、少し伸弘は、葵に対して敬語になりそうになった。
「私服…凄い似合ってるわよ。」
満面の笑顔に対して、伸弘は照れた、凄い照れた。
「お…さ、サンキュー。」
葵が、みんなに慕われる生徒会長ということがよく分かった気がした。
☆
「出遅れた…。」
「出遅れました…。」
2人ともどうしても照れて言えず、結局葵に言われたのだ。
しかし始まったばかり
…まだまだチャンスはあると佳織と麻美は、少し後ろで鼓舞し合った!
「聞こえてるけどな。」
耳がいい、伸弘にはまる聞こえだったが、聞いてないことにした。
「どうしたの?」
「いいや、別に。」
葵が不思議そうな顔をしてい伸弘を見ている。
2人の話が聞こえて……伸弘自身の顔もほころんでいた。