赤面のプリンセス
そう紹介された伸弘は堂々とステージ上に立つ。
ざわざわと、体育館が騒音に包まれる。
「じゃ、挨拶してね。伸弘君!」
ウインクしながら、葵は伸弘にマイクを渡した。
『伸弘君……だと?』
『くそったれがぁああああああああああ!』
『うぁぁjkfじゃ@を!』
『専属係……だと?』
(あぁ…耳が良いって不便だな。それにしても男の嫉妬も恐ろしいな。)
ちなみに目も鼻も何もかもが、
常人よりは優れているので誰が何を言っているのか、よく分かる。
いい事も悪い事も聞こえない、鈍感主人公のようにはいかないのだ。
「分かりました、葵さん。」
ウッホンと、咳払いをして、マイクを手に取る。
辺りを見回すと、麻美と佳織の2人と目が合う。
すると、手を少しだけ上にあげてガッツポーズをこちらにしてくれた。
なんだか、少し緊張がほぐれた気がした。
これはもう…
―――やるしかない。
☆
「伸はいつ葵と仲良くなったんだ?しかも、下の名前で呼んでるし。」
少し不満げに佳織は言う。
葵は数少ない、幼等部からの麻美と佳織の友達だ。
「佳織、珍しく嫉妬ですか?」
麻美は、佳織の少しの表情の変化も見逃さない。
それが、長年一緒に過ごしている証。
「そういう麻美こそ、手!」
そう、それは佳織も同じ。
「麻美が手を気にしてる時は、不満があるときだ。」
にゃっと笑う、相変わらずこの顔が良く似合う。
「それは…だって…あの……葵と伸が…。」
「よく分からないが、少し胸の辺りが、もぞもぞする感じだろ?」
コクリと頷く麻美、
すると、伸弘が少し辺りを窺っているのが2人とも分かった。
ふっと目が合う、2人は自然と伸弘に向けてガッツポーズを送っていた。
「「頑張れ(って)」」
☆
にこっと伸弘が笑う。
「長橋学園の皆様、おはようございます。ご紹介にあずかりました、大島伸弘です。」
なんだか、自然と言葉が口から溢れる。
「今、私はご存知プリンセスこと、佳織様と麻美様の専属係をやらせて頂いております。」
佳織と麻美とまた目が合う。
「精一杯、この学園での生活を楽しませてもらうつもりです。」
こういうことは、苦手なはずなのに…。
「皆様、大事なお嬢様共々、これから宜しくお願いします。」
ぺこりとお辞儀する。
自然と拍手が体育館を包んだ。
ドキドキしている心臓を、右手で押さえてふぅと息を吐く。
終えると、再び体育館の隅に待機させらた。
ハッと気付けば、解散となっていて各自新しい教室に向かっている。
「お疲れ!」
「お疲れ様でした。」
佳織と麻美だ。
「2人とものお陰で緊張が解けた、ありがとう。」
改めて礼を言う。
「やはり、敬語よりそっちのほうが良いな。」
「3人だけの時はそうして下さいね?」
そういって、麻美と佳織は伸弘を挟んで歩き出す。
「それにしても、あの人数の前で大胆だぞ!」
佳織に言われる。
「ええ…あんな大勢の前で大事…だなんて。」
麻美も伸弘をいじるために、追い討ちをかける。
「本当の事だからな。」
そんな2人の意図を知ってか、反撃する伸弘。
シュッボン!と麻美と佳織の顔が赤面した。
「私のことも大事にしてね?」
声のほうを振り返ると、葵が伸弘の肩を小突く。
「葵!」
「葵!!」
その後は、3人で色々と言い合いをしていた。
珍しく、2人が他人と絡んでいるのを見て、
少し嬉しくなった伸弘であった。