兆し
暖かい春の日差しを浴びる。
学校は生徒休業日で春休みとまた違ったお休みだ。
3月もすぐ終わりで、大島 伸弘は、
趣味である散歩をここぞとばかりに優雅に楽しんでいた。
すっと、公園のベンチから立ち上がり、近くの自販で買って飲んだ、
ミルクティーの缶をゴミ箱に捨てる。
耳からは春を主題にした歌が聞こえてくる。
ちらっと梅の花を見た。
「まさしく春だなぁ…」
しみじみと趣を感じながら公園を出ることにした。
この大島 伸弘は、幼い頃にあった事故以来、ずっと幸せ体質で
その体質を使って人助けをよく行う。
公園から出るとすぐに横断歩道があるが、
そこは車はほとんど通らない道なので信号も無い。
おまけに、そこそこの田舎なので道の幅は広く、また縦に長いといった、結構危ない歩道だ。
そんな歩道を2人の女の子が歩いているのが伸弘の視界に入ってきた。
そこは十字路で車も滅多に通らないはず……だが……。
伸弘は何故か嫌な予感がして、耳からイヤホンを外す。
気付けば、伸弘はその場から全力でその女の子たちに向かって駆けていた。
駆けると同時に車が左手から走ってくる音がする。
ある事故のお陰で、聴力はかなり良いのだ。
「おいッ! 危ないぞお前ら!!」
伸弘は叫ぶが2人は話に夢中のようでまるで聞こえていない。
更に、車にも気付いていない…………いったい、どこまで夢中になっているのだろう。
「何で気付かねーんだ!!!」
限界を突破して走る、そこで女の子達も車に気付くが少し遅い。
更に状況を理解できていないらしく、二人して固まっている。
車の中に居る若者はこくこくと舟をこいていやがった。
このまま2人をこの走っている勢いを使い、思いっきり2人押して助けようとするが…
もしかしたら、自分自身が巻き込まれるかもしれない。
「きゃぁあああああああ!!!!!!!!!!」
「うわぁあああああああ!!!!!!!!!!」
2人の女の子の声がこだまする。
伸弘は走りながら冷静に考える。
伸弘は咄嗟に2人の間に入って振り返り、女の子の左手と右手を思いっきり体に寄せる。
「おらぁ!」
そして腕を背中に回す。
2人をこけても怪我をさせないように体を下敷きに、後ろに出来るだけジャンプして倒れこむ。
プーッとクラクションを運転手は鳴らした。
お前の居眠りのせいだろ!と、伸弘は思うが体に力が入らない。
ぎりぎりまで寝ていてくれたからこそ、車のハンドリングがまっすぐだったのだ。
あれで、いきなりハンドルをきられていたら…。
ぞっとするので、それ以上は考えないようにする。
少しだけ、奥に秘めていたあの時のことを思い出しそうになった…。
しかし、本当にはねられる寸前だった。
冷や汗が伸弘の額を流れていく。
そこで二人のことを確認しようと、無理やり体を動かす。
「おい、大丈夫か?!」
伸弘は立ち上がって、手を差し出し、二人に尋ねる。
―――そう、この出来事が、大島伸弘と…彼女達の出会いであった。
この瞬間はずっと忘れない。
初めまして、
宜しくお願いします!