勇者様、魔王を倒してください。嫌です
「勇者様、どうか魔王を倒してください!」
「嫌です」
「即答!?」
「はい」
「なぜですか!?」
「危ないからです」
「勇者ですよ!?」
「だから何ですか?」
「勇者なら魔王を倒すのが仕事でしょう!」
「契約書にそんなこと書いてありません」
「契約書!?」
「はい。召喚されたときに渡されたこれです」
「……どれどれ。『勇者として召喚された者には、衣食住を保証する』……」
「そこです」
「そこ?」
「衣食住が保証されているなら、働く必要ないですよね?」
「……」
「つまり、俺はもう働かなくていい」
「いやいやいや!」
「何ですか?」
「勇者の使命は!?」
「衣食住の保証と引き換えに魔王を倒す、とは書いてありません」
「書いて……ない……」
「なので、俺は働きません」
「しかし魔王が世界を滅ぼそうとしているのですよ!」
「それは大変ですね」
「他人事!?」
「他人事です」
「あなたの世界でしょう!?」
「召喚されたばかりです」
「でも人間ですよね!?」
「一応」
「人間なら人類を救おうと思いませんか!?」
「思いません」
「なぜ!?」
「昨日、召喚されました」
「はい」
「今日、朝食を食べました」
「はい」
「パンが美味しかったです」
「はい」
「ここで暮らしたいです」
「……」
「なので魔王討伐には行きません」
「話が進まない!」
「では、俺は部屋に戻ります」
「待ってください!」
「まだ何か?」
「報酬を出します!」
「いくらですか?」
「金貨一万枚!」
「やります」
「早い!」
「ちなみに危険度は?」
「……かなり高いです」
「じゃあ金貨十万枚」
「交渉するな!」
「命がかかってますから」
「では、金貨五万枚!」
「それで」
「本当に!?」
「はい」
「では、明日から魔王討伐へ!」
「嫌です」
「なぜ!?」
「今日の夕飯がまだです」
「夕飯くらい食べてから行けばいいでしょう!」
「冷めます」
「魔王より夕飯!?」
「魔王は逃げませんよね?」
「逃げる可能性はあります!」
「では急いだ方がいいですね」
「おお!」
「夕飯を食べるために」
「そこじゃない!」
「では、魔王を倒したら夕飯を用意してください」
「何がいいですか?」
「唐揚げ」
「分かりました」
「あと味噌汁」
「はい」
「白米」
「はい」
「漬物」
「はい」
「納豆」
「異世界に納豆あると思います!?」
「ないんですか?」
「ありません!」
「では、魔王に聞きましょう」
「なぜ魔王に!?」
「魔王なら持っているかもしれません」
「そんなわけ――」
「失礼します」
「ちょっと待ってください!」
「はい?」
「今から魔王城へ向かうんですよね?」
「はい」
「本当に魔王を倒すんですよね?」
「もちろんです」
「よかった……」
「納豆のために」
「そこはもういいです!」
「魔王城はどちらですか?」
「あちらです」
「分かりました」
「勇者様」
「はい?」
「くれぐれも油断しないでください」
「大丈夫です」
「魔王は恐ろしい存在です」
「はい」
「魔王軍には四天王もいます」
「四人ですか?」
「はい」
「まとめて倒せばいいですね」
「できますか!?」
「勇者なので」
「急に勇者らしい!」
「では行ってきます」
「ご武運を!」
「はい」
「勇者様!」
「何ですか?」
「魔王を倒したら、本当に納豆を探しますからね!」
「約束ですよ」
「はい!」
「では――」
「はい」
「行ってきます」
「お気をつけて!」
「――ところで」
「はい?」
「魔王って、どんな顔ですか?」
「え?」
「俺、まだ見たことないので」
「……」
「どうしました?」
「勇者様」
「はい」
「魔王、あなたの後ろにいます」
「…………」
「…………」
「…………」
「……こんにちは」
「こんにちは」
「勇者様?」
「はい」
「魔王です」
「……」
「……」
「夕飯、何食べます?」
「唐揚げ」
「奇遇ですね」
「はい」
「私も唐揚げが好きです」
「では」
「はい」
「一緒に食べませんか?」
「いいですね」
「勇者様!?」
「何ですか、王女様」
「魔王と仲良くなってどうするんですか!」
「魔王討伐ですよ」
「してません!」
「唐揚げを食べながら話し合います」
「話し合い?」
「はい」
「何を?」
「戦争をやめてもらえないかと」
「……」
「魔王も納豆が好きなら、きっと話が合います」
「だから異世界に納豆はないんですって!」
「ありますよ」
「え?」
「私、持ってます」
「魔王!?」
「はい」
「なぜ!?」
「魔王城で作っています」
「どうやって!?」
「大豆を発酵させました」
「本格的!」
「食べます?」
「食べます」
「勇者様!?」
「王女様もどうぞ」
「……」
「どうしました?」
「……私も食べます」
「では、三人で夕飯にしましょう」
「魔王討伐は!?」
「明日でいいでしょう」
「明日も嫌です」
「勇者様!?」
「じゃあ、明後日」
「もっと嫌です!」
「では、来週」
「伸びてるだけじゃないですか!」
「仕方ないですよ」
「何がですか!」
「魔王も良い人でしたから」
「……」
「王女様」
「はい」
「魔王討伐、やめません?」
「……」
「私もそう思っていました」
「え?」
「実は私も、魔王城の唐揚げが食べてみたかったんです」
「王女様まで!?」
「戦争より唐揚げですよ」
「勇者様!」
「はい?」
「あなたたち、本当に勇者と王女ですか!?」
「違います」
「違うんですか!?」
「ただの唐揚げ好きです」
「……魔王軍に加入しませんか?」
「いいですね」
「勇者様!?」
「給料はいくらですか?」
「金貨月百枚です」
「入りましょう」
「即決!?」
「私も入ります」
「王女様まで!?」
「衣食住は保証されますか?」
「もちろん」
「では、よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
「……」
「どうしました?」
「国王に何て報告すればいいんですか……」
「『勇者と王女が魔王軍に就職しました』でいいんじゃないですか?」
「そんな報告、できるわけないでしょう!!」




