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勇者様、魔王を倒してください。嫌です

作者: 大豆
掲載日:2026/09/06

「勇者様、どうか魔王を倒してください!」


「嫌です」


「即答!?」


「はい」


「なぜですか!?」


「危ないからです」


「勇者ですよ!?」


「だから何ですか?」


「勇者なら魔王を倒すのが仕事でしょう!」


「契約書にそんなこと書いてありません」


「契約書!?」


「はい。召喚されたときに渡されたこれです」


「……どれどれ。『勇者として召喚された者には、衣食住を保証する』……」


「そこです」


「そこ?」


「衣食住が保証されているなら、働く必要ないですよね?」


「……」


「つまり、俺はもう働かなくていい」


「いやいやいや!」


「何ですか?」


「勇者の使命は!?」


「衣食住の保証と引き換えに魔王を倒す、とは書いてありません」


「書いて……ない……」


「なので、俺は働きません」


「しかし魔王が世界を滅ぼそうとしているのですよ!」


「それは大変ですね」


「他人事!?」


「他人事です」


「あなたの世界でしょう!?」


「召喚されたばかりです」


「でも人間ですよね!?」


「一応」


「人間なら人類を救おうと思いませんか!?」


「思いません」


「なぜ!?」


「昨日、召喚されました」


「はい」


「今日、朝食を食べました」


「はい」


「パンが美味しかったです」


「はい」


「ここで暮らしたいです」


「……」


「なので魔王討伐には行きません」


「話が進まない!」


「では、俺は部屋に戻ります」


「待ってください!」


「まだ何か?」


「報酬を出します!」


「いくらですか?」


「金貨一万枚!」


「やります」


「早い!」


「ちなみに危険度は?」


「……かなり高いです」


「じゃあ金貨十万枚」


「交渉するな!」


「命がかかってますから」


「では、金貨五万枚!」


「それで」


「本当に!?」


「はい」


「では、明日から魔王討伐へ!」


「嫌です」


「なぜ!?」


「今日の夕飯がまだです」


「夕飯くらい食べてから行けばいいでしょう!」


「冷めます」


「魔王より夕飯!?」


「魔王は逃げませんよね?」


「逃げる可能性はあります!」


「では急いだ方がいいですね」


「おお!」


「夕飯を食べるために」


「そこじゃない!」


「では、魔王を倒したら夕飯を用意してください」


「何がいいですか?」


「唐揚げ」


「分かりました」


「あと味噌汁」


「はい」


「白米」


「はい」


「漬物」


「はい」


「納豆」


「異世界に納豆あると思います!?」


「ないんですか?」


「ありません!」


「では、魔王に聞きましょう」


「なぜ魔王に!?」


「魔王なら持っているかもしれません」


「そんなわけ――」


「失礼します」


「ちょっと待ってください!」


「はい?」


「今から魔王城へ向かうんですよね?」


「はい」


「本当に魔王を倒すんですよね?」


「もちろんです」


「よかった……」


「納豆のために」


「そこはもういいです!」


「魔王城はどちらですか?」


「あちらです」


「分かりました」


「勇者様」


「はい?」


「くれぐれも油断しないでください」


「大丈夫です」


「魔王は恐ろしい存在です」


「はい」


「魔王軍には四天王もいます」


「四人ですか?」


「はい」


「まとめて倒せばいいですね」


「できますか!?」


「勇者なので」


「急に勇者らしい!」


「では行ってきます」


「ご武運を!」


「はい」


「勇者様!」


「何ですか?」


「魔王を倒したら、本当に納豆を探しますからね!」


「約束ですよ」


「はい!」


「では――」


「はい」


「行ってきます」


「お気をつけて!」


「――ところで」


「はい?」


「魔王って、どんな顔ですか?」


「え?」


「俺、まだ見たことないので」


「……」


「どうしました?」


「勇者様」


「はい」


「魔王、あなたの後ろにいます」


「…………」


「…………」


「…………」


「……こんにちは」


「こんにちは」


「勇者様?」


「はい」


「魔王です」


「……」


「……」


「夕飯、何食べます?」


「唐揚げ」


「奇遇ですね」


「はい」


「私も唐揚げが好きです」


「では」


「はい」


「一緒に食べませんか?」


「いいですね」


「勇者様!?」


「何ですか、王女様」


「魔王と仲良くなってどうするんですか!」


「魔王討伐ですよ」


「してません!」


「唐揚げを食べながら話し合います」


「話し合い?」


「はい」


「何を?」


「戦争をやめてもらえないかと」


「……」


「魔王も納豆が好きなら、きっと話が合います」


「だから異世界に納豆はないんですって!」


「ありますよ」


「え?」


「私、持ってます」


「魔王!?」


「はい」


「なぜ!?」


「魔王城で作っています」


「どうやって!?」


「大豆を発酵させました」


「本格的!」


「食べます?」


「食べます」


「勇者様!?」


「王女様もどうぞ」


「……」


「どうしました?」


「……私も食べます」


「では、三人で夕飯にしましょう」


「魔王討伐は!?」


「明日でいいでしょう」


「明日も嫌です」


「勇者様!?」


「じゃあ、明後日」


「もっと嫌です!」


「では、来週」


「伸びてるだけじゃないですか!」


「仕方ないですよ」


「何がですか!」


「魔王も良い人でしたから」


「……」


「王女様」


「はい」


「魔王討伐、やめません?」


「……」


「私もそう思っていました」


「え?」


「実は私も、魔王城の唐揚げが食べてみたかったんです」


「王女様まで!?」


「戦争より唐揚げですよ」


「勇者様!」


「はい?」


「あなたたち、本当に勇者と王女ですか!?」


「違います」


「違うんですか!?」


「ただの唐揚げ好きです」


「……魔王軍に加入しませんか?」


「いいですね」


「勇者様!?」


「給料はいくらですか?」


「金貨月百枚です」


「入りましょう」


「即決!?」


「私も入ります」


「王女様まで!?」


「衣食住は保証されますか?」


「もちろん」


「では、よろしくお願いします」


「よろしくお願いします」


「……」


「どうしました?」


「国王に何て報告すればいいんですか……」


「『勇者と王女が魔王軍に就職しました』でいいんじゃないですか?」


「そんな報告、できるわけないでしょう!!」

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