旧神殿への再訪
護衛依頼を受けてくれたのは、調査専門のパーティだった。
先頭に立つ男が、短く名乗る。
「風切りの刃。リーダーのガイルだ。
左から、ミーナ、ハイド、エド、ミスティ」
「よろしくお願いします」
頭を下げながら、ふと胸の奥が引っかかった。
――前に、一緒に潜ったことがある。
そう思って指名したはずの面々は、
もう二百年ほど前に天に召された、と聞かされた。
……そんなに、前だった?
まあ、いないなら仕方がない。
私はギルド長から預かっていた許可証を取り出し、
禁足地である旧神殿への入域を申請した。
調査に長けた、このパーティを紹介された理由も、理解できる。
「では、行きますか!」
軽い号令とともに、ダンジョンへ。
「地図はあります。
これを見ながら、進んでください」
全員が一斉に地図を覗き込む。
「……ここまで細かいのは珍しいな」
「調べ尽くした、って感じがする」
「目的地までの護衛だけ? ほんとに?」
「イージーじゃない?」
「え?
護衛依頼ですけど……」
リーダーが、少し困ったように笑った。
「いや。ギルド長から聞いたんだが……
代々引き継がれてる任務らしい。
千年は、必ず継続しろ、って」
……え?
まさか。
「本当に?
じゃあ、後で――ええと、
“昔の”ギルド長さんにも、お礼を伝えに行きます」
「ははは。それはギルド長も驚くだろうな」
その一言で、場の空気が一気に和らぐ。
ダンジョンを進むと、
壁画が、昔と変わらない姿で現れた。
彼と踊った道。
男に王冠を載せる女神。
騎士に守られる女神。
踊る女神。
祝福を与える女神。
色褪せない壁画が、
まるで“正しい道”を示すように並んでいる。
「……女神さま、愛されすぎじゃない?」
「私も、こんなふうに愛されたいな」
「俺が愛してあげるよ」
即座に、冷たい視線。
「ないわー」
「浮気三昧で、いつ刺されてもおかしくない男に愛されるとか、事件の予感しかしない」
沈黙。
そして、溜息。
「このパーティ内、恋愛禁止だ!」
軽口を叩き合いながらも、進行は無駄がない。
魔物が現れれば、
迷いなく、確実に――斬り伏せられていく。
「……すごく、強い」
思わず拍手すると、皆が肩をすくめた。
「修羅場は、嫌というほど越えてきたからな」
「本当にヤバい案件の時は、もう一人と、二匹が加わる」
「無理はしない。生きて戻る。それがルールだ」
あっという間に、旧神殿の大広間へ。
私は、彼が残してくれた研究資料と、
目の前の空間を慎重に照らし合わせる。
周囲では、風切りの刃の面々が警戒を続けていた。
深呼吸を、ひとつ。
ふたつ。
床へ、魔術陣を刻み始める。
重ねて。
さらに、重ねて。
線が、意味を持ち始める。
……クオン。
胸の奥が、きしんだ。
記憶を、鮮明に呼び起こす魔術。
千年前に――
わたしのもとへ。
あなたを、喚ぶ。
幾重にも描かれた陣が、
淡く、静かに、光を帯びていく。
その中心で、私は立っていた。
彼の名を、
ただひとつの祈りとして。




