初めての夜
湯浴みを終え、ベッドに腰を下ろして彼を待つ。
濡れた髪を肩に流し、静かに息を整える。
身体は温かいのに、胸の奥だけが妙に落ち着かない。
種族の違いを越えて添い遂げた人は、ルクス王国にも稀にいる。
……本当に、稀にだ。
まさか、その“稀”に自分が含まれるなんて、思いもしなかった。
両親には、どう報告しよう。
落ち着いたら、彼を紹介しなきゃ。
そんなことを考えているうちに、
カチャ、と小さな音がして、扉が開いた。
寝室に入ってきた彼は、ぎこちなく足を運んでいる。
視線は定まらず、肩には余計な力が入っていた。
……緊張している。
それが、はっきりわかる。
思わず、口元が緩んだ。
私がリードしたほうがいいのかな、と一瞬考えて、すぐに首を振る。
閨の作法なんて、最低限しか学んでいない。
つまり――お互い様だ。
「私、初めてなんだよねー」
冗談みたいな調子で言った言葉が、
空気を一段、静かにした。
彼は一瞬、息を詰めたように見えた。
「……う、あ。俺も……です」
視線を逸らしたままの返事。
もし目が合ったら、きっとお互い、動けなくなってしまう。
「優しくしてね?」
そう言うと、彼は何度も、何度も頷いた。
その様子が、可笑しくて、可愛くて、
胸の奥がきゅっと鳴る。
距離が、自然と縮まる。
そっと触れた唇。
短く、確かめるような口付け。
もう一度。
今度は、少しだけ長く。
胸の奥が、くすぐったくなる。
理由のわからない、懐かしい感覚。
呼吸が近づき、言葉が減っていく。
静かな部屋に、二人分の鼓動だけが残る。
視線が絡み、ほどけない。
……少し、はやまったかもしれない。
そう思ったのに、もう目を逸らせなかった。
彼の温度が、すぐそこにある。
「……見過ぎだろ」
照れた声に、思わず小さく笑う。
「だって……」
それ以上は、言わなかった。
触れ合う距離が、ゆっくりと深まっていく。
確かめるように、何度も。
彼の手が、私の背に回る。
力はこもっていないのに、逃げ場がない。
――大切にされている。
それだけは、はっきりと伝わってきた。
時間が、ゆっくり溶けていく。
やがて、彼の額が私の額に触れた。
「……大丈夫?」
小さな確認。
「うん」
それだけで、十分だった。
言葉は少なくなり、
代わりに、呼吸と体温がすべてを語る。
夜は、静かに深まっていく。
どこまでが始まりで、
どこからが終わりなのか、もうわからない。
ただ、確かに――
選び合って、受け入れ合って、
同じ時間を過ごしている。
夜は長く、
この日、私たちは同じ場所で眠りについた。
これからも、きっと。
彼の傍で。




