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永遠に咲く花を君と。  作者: ChaCha


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24/40

旧神殿で涙を零す君

盾役の男が、短く名乗った。


「ゲイルだ。よろしく頼む」


低く落ち着いた声。

視線は周囲を一瞬なぞるだけで、すぐにこちらへ戻る。


続いて、剣を肩に担いだ前衛が一歩前に出る。


「剣士のハンスだ」


軽い挨拶のあと、

ハンスは自然な動作で私の手を取り、その甲に口付けを落とした。


一拍。


空気が、ぴんと張る。


すると大きな声と共にクオンがザッと割り込んできた。


「待て! トワは俺の嫁だ!」


……嫁って何!?


あまりにも必死な声音と、

距離を詰める速さに、思わず吹き出してしまう。


「あははは! みんな、よろしくね!」


胸の奥がくすぐったい。

可笑しくて、でも――少しだけ、温かい。


そうか。

私は彼のなかでは、もう嫁ポジションなのね?


いつから?

ふふふ。


自分でも理由がわからないまま、笑ってしまった。


禁足地だった旧神殿。

ギルド長の許可証付きだ。


護衛依頼を受けてくれた彼等の等級は高い。

動きも、視線の配り方も無駄がない。


きっと、ギルド長繋がりなんだろうな。


探索が始まると、彼は地図へ細かに記入している。

壁画。

道の幅。

崩れかけた石材の位置。


私は彼の傍を歩きながら、

いつでも治癒を展開できるように、静かに魔力を巡らせていた。


呼吸を整える。

魔力が身体の内側を滑る感覚。


曲がり角。


ゲイルからの手信号。


魔物だ。


自然と、身体が戦闘態勢へ移行する。


エンカウント。


初手は慎重だった。

距離を測り、動きを見極める。


けれど数合も交えれば、

連携はすぐに噛み合い始めた。


ゲイルが盾で受け、

ハンスが剣で切り込み、

クオンが魔術で削り、

私の治癒で、癒し陣形を保つ。


――速い。


判断も、切り替えも。


順応力が高い。

彼らは本当に、いい前衛だ。


ギルド長!!


思わず、心の中で叫ぶ。


あの人が好きになった。

【私のクオンを】

しっかり守ってくれる人選に、心から感謝した。


戦闘が終わるたび、

つい、ぱちぱちと手を叩いてしまう。


「みんな、強い!」


ハンスが肩をすくめて、軽く笑う。


「惚れた?」


「惚れ……てなーい!」


即答。


私は、クオンだけを観察したい。

今はそれだけで、手一杯なんだから。


ゲイルが呆れたように言う。


「まさか、古代遺跡の横に一戸建てを建てて、研究したい奴がいるとはな」


クオンが、息を吐きながら肩を落とす。


「俺自身も、仕方なく、です」


苦笑い。

でも、逃げる気は一切ない表情。


休憩を挟みながら、進む。


食事の時間。


保存食を広げると、

二人の反応は分かりやすかった。


ハンスが目を見開く。


「美味い! 最近流行りのドライフード、クオンが作ってたのか!」


ゲイルも頷く。


「助かってる。正直、救世主だな」


クオンが、少し照れたように笑う。


「気に入ってくれて、嬉しいよ」


胸の奥が、また、きゅっと鳴る。


私は、楽しそうに言った。


「永久就職先、決まったね?」


クオンが慌てて返す。


「……俺、戦闘魔術師だからな!?」


笑いが起きた。


パーティを組んで、

ダンジョンに潜って、

戦って、笑って、生き残る。


……ああ。

一緒に、彼と生きてる、って感じがする。


回廊の壁画を見ながら進む。


祝福の流星雨を降らせる女神と、

祈りを捧げる人々。


女神さまは、愛されてる。


私も……。


胸の奥で、何かが静かに揺れた。


魔物が飛び出してきた。


ゲイルが受け流し、

ハンスとクオンが剣で薙ぎ斬る。


反応が、早い。


思わず息を詰めたけれど、

怪我はない。


よかった。


もし、何度も潜る必要が出来たら――

ゲイルとハンスに、これからも依頼しよう。


やがて、大広間へ続く扉が見えた。


重厚な扉を、慎重に開く。


警戒を解かないまま、足を踏み入れる。


旧神殿の大広間。


中央に、祭壇。


クオンが明かりの魔術を幾重にも展開する。


淡い光が広がり、

その背後に、女神をかたどった壁画が浮かび上がる。


何百、何千年を経ても、

変わらない美しさ。


この空間だけ、

時間が置き去りにされたみたいだ。


ゲイルとハンスは周囲を警戒。


私は、クオンを観察していた。


ゆっくりと、祭壇へ歩みを進める彼。


足音が、やけに大きく響く。


……静寂。


彼が、震えながら声を落とした。


「……嘘、だろ……」


喉が詰まる音。


「……確かに、ここに魔術陣が描かれていたはずだ」


力が抜けたように、

彼は膝から崩れ落ちる。


私は、慌てて駆け寄った。


ポロポロと、

瞳から雫が零れ落ちていく。


ハンカチを差し出したけれど、

彼は、それを受け取らなかった。


身体が、小刻みに震えている。


ああ……なるほど。


目的の魔術陣が――

消えている。


私は、背後から彼を抱き締める。


温度。

呼吸。

生きている重さ。


手掛かりが、消えたということ。


彼は、この時代から帰れない。


私の、傍から消えない。


胸の奥に、

言葉にしてはいけない感情が、

じわりと滲む。


――仄暗い、喜び。


だめ。

笑っちゃ、だめ。


彼は今、

絶望している。


彼は、私とずっと一緒に――


私は、声を選びながら言った。


「……どうする? 諦めちゃう?」


一緒に、広いこの世界を旅してみない?


彼は答えない。


「……」


唇を噛みしめ、

紙を取り出し、

大広間の隅から隅まで歩き出す。


壁。

柱。

床。

天井。


一つずつ。

目で。

足で。


確かめる。


――そう。


まだ、帰ることを諦めていない。


私は、のんびり待つことにした。


敷物を広げ、

慣れた手つきで紅茶を淹れる。


湯気が立ち、

茶葉の香りが、静かな広間に広がる。


ゲイルとハンスへ差し出すと、

二人は何も言わずカップを受け取り、

クッキーを摘みながら腰を下ろした。


視線は、

ずっと、クオンへ。


彼の一挙手一投足。

真剣な眼差し。

慎重な動作。


祭壇の中心。


彼が、何かを感知したように、

わずかに動きを止めた。


「……」


小さく頷き、

拳を、きゅっと握りしめる。


何かを閃いた。

何かを、決めた。


今が――

私の方へ、戻ってきてくれる機会かな?


私は、いつもの調子で声を張る。


「紅茶いれたよ!」


カップを掲げる。


「クオンが好きなお酒入りのクッキーもあるよー!」


いつも通り。

何も変わらない笑顔。


彼が振り返り、

私を見た。


そして――

笑った。


よかった。


彼は、絶望から、私のもとへ戻ってきた。


大丈夫だよ。


君が死ぬときまで、

私は傍で、見守ってあげるからね?


旧神殿の大広間を静かに出て、

来た道を、四人で引き返す。


前方では三人が何やら、

小さな声で、わちゃわちゃとやり取りをしていた。


石畳を踏む音が、規則正しく重なっていく。


その中で、

彼の声だけが、ほんの一瞬、耳に引っかかった。


「……わかってます」


低く、短く、

まるで自分自身に言い聞かせるような声音。


胸の奥が、きゅ、と締まる。


何を、

どこまで、

わかっているのだろう。


問いかけは、口にしない。


ただ、

彼の背中から離れないその温度を、

確かめるように歩き続けた。


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