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永遠に咲く花を君と。  作者: ChaCha


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1000年後からきた彼。

禁足地指定の、女神さまの旧神殿。

こっそり観光に来ただけだった。


石の床は冷え、回廊の空気は澱んでいる。

奥へ進んだ、その瞬間――空気が変わった。


壁が、閉じた。

光が、遠ざかった。


あ。

これは、ヤバい。


そう思った時にはもう、神殿は遺跡ではなく、

牙を剥いたダンジョンになっていた。


魔物。罠。分岐。

出口は見えず、時間だけが削られていく。


それでも。


助け合って、命を拾って、進んだ。

声を交わさなくても、次の動きが分かる。


踏み出す間合い。

剣の軌道。

息を吸う、吐く、その切り替え。


呼吸も、身体も、感覚も。

不思議なくらい、ぴたりと揃っていく。


――まるで。


愛しい人に、また逢えた喜びが、

舞うみたいに重なっていく。


胸が熱くなり、身体が軽い。

足が、勝手に前へ出る。


……本当に。

変な人だ。


最後の魔物を倒し、素材を回収して。

出口の光が、すぐそこに見えた、その直前。


彼が、何も言わずに手を差し出した。


一瞬の、間。


私は迷わず、その手に自分の手を重ねる。

指が触れ、体温が伝わる。


一緒に、

陽の光を浴びた。


眩しさに、目を細める。


「……助かった」


安堵したように息を吐く、その横顔。

張り詰めていたものが、ゆっくりほどけていく。


その表情を見た瞬間。

胸の奥が、きゅっと鳴った。


ああ。

これで、別々なんだ。


ダンジョンの外では、

もう一緒に戦う理由はない。


そう思ったら、

ほんの少しだけ、寂しくなった。


ふ、と顔を向け直す。


彼は神妙な顔つきで、周囲を見渡して――

ぽつりと、声を零した。


「……そんな馬鹿な話、あるか?」


……え。


仲間、が?

まさか。置き去りに?


頭の中が、ざわつく。


えっ。

それって……。


めちゃくちゃ、可哀想な人じゃない!?


沈んだ空気を、壊さなきゃ。

励ましてあげなきゃ。


「お腹すいちゃったね!

 昼食にしようか?」


できるだけ明るく、弾ませる。


――固まった。


……どうして?


お腹、空いてない?

私はもう、ぺこぺこなんだけど。


はやく食べようよ。

もうっ。


「どうしたの?

 ぼーっとして」


「あ、いや……うん」


視線が、少し泳ぐ。


私が鞄に手を伸ばした、その時。


「俺が準備するよ。

 お礼も、返しきれてないからね」


そう言って、手際よく動き始める。


調理というほどの時間もなく。

差し出されたのは、湯気を立てるスープ。


野菜と肉がごろごろ入った、深い香り。

柔らかい白パンに、木苺のジャム。


「すっっっごく美味しいー!!」


思わず声が跳ねた。


なに、これ。

本当に、美味しい。


「料理の天才だったんだね!?」


「いや。

 どこにでも売ってるドライフードだぞ」


「へー!

 アグナス王国、すごい!」


ルクス王国にも欲しいな。

あとで、買い溜めしておかなきゃ。


そんなことを考えながら舌鼓を打っていると。

ふ、と空気が沈んだ。


「……あの、さ。

 図々しいとは思うんだけど……」


声が、少し低い。


「うん?」


「俺、多分……

 トラップで魔力干渉を受けたせいか、

 記憶が、ちょっと曖昧なんだ」


胸の奥が、ぎゅっと締め付けられる。


「ギルドへの報告とか……

 その……助けてほしい」


もちろんだよ!!!


考えるより先に、頷いていた。


「いいよー!」


任せて。

私に、任せて。


「私には、時間は有り余ってるからね」


にっこり微笑むと、

彼は少し照れたように視線を逸らした。


昼食を終え、歩き出す。


やがて、

シュタットの街が見えてくる。


石畳。人の声。生活の匂い。

隣を歩く彼を、ちらりと見上げた。


……顔が、険しい。

気配まで、少しずつ変わっていく。


「この街、活気があっていいよね」


素直に言った、その瞬間。


びくっと、肩が跳ねた。


……どうしたんだろう。


さっき、生まれも育ちも

ここだって言っていたのに。


街中で、

足取りはどこか迷っている。


魔力干渉……怖いな。


鼻血も、だばだば流してたし。

この人、本当に、大丈夫かな。


ギルドで。


受付とやり取りする声は、

切羽詰まっていた。


「……頼む。

 ギルド長と、話がしたい」


通されたのは、奥の応接室。


扉が閉まり、

空気が張り詰める。


そこで、初めて。

彼が置かれている状況を、詳しく知った。


真剣な声音。


「新アグナス歴2393年発行。

 現在は、新アグナス歴1394年だ」


指先が、迷子になったみたいに震える。


「女神さまが舞い降りた、建国日から……

 1394年目……だから……」


声が、途中で止まった。


「1000年だ。

 時間軸に干渉する類のトラップは、

 ギルドの記録には存在しない」


淡々と、続く。


「仮に、理論上あり得たとしても……

 同じ罠を再び踏めば、

 次は394年に跳ぶ可能性がある、という程度だな」


「……時間は、

 前に進みたいんです……俺……」


掠れた声。


次の瞬間。

瞳から、ぽろぽろと綺麗な雫が落ちた。


……こんな時。

なんて声を、かけたらいいんだろう。


私は、

とりあえずハンカチを差し出した。


震える手を包むように、

精一杯の励ましを添えて。


変な人。


私が、命を助けた彼。

この人は――

1000年後から飛んできた、変な人だった。


不謹慎だけれど。

長い時間を生きる私には、

これはきっと、絶対に楽しい思い出になる。


その時は、

彼の隣を手放す気なんて、

一切、考えていなかった。


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