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永遠に咲く花を君と。  作者: ChaCha


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生命が尽きるその時まで

プロポーズは、勢いが大事だ。

考えすぎたら、絶対に踏み出せなくなる。


だから俺は、まっすぐ彼女へ向かうと決めた。


指輪の準備、よし。

気合いを入れて、戦闘魔術師としての正装に身を包む。

いつもの装備より、少しだけ堅苦しい。

でも、今日は――今日だけは、これでいい。


「あれ? 今日はやけに張り切った格好してるね!」


彼女は俺を見上げて、にこにこと笑った。

疑いも、警戒も、探るような色もない。

ただ、いつも通りの――無防備な笑顔。


それが、胸に刺さる。


「……トワ。花畑へ、一緒に行かないか?」


言葉を選んだはずなのに、

声がわずかに上ずったのが自分でも分かった。


喉が、ひりつく。

息を吸うだけで、胸の奥がきゅっと縮む。


「そろそろ昼食時だね! ピクニックだね、行く!」


弾むような声。

思い描いていた反応とは、少し違う。


……ち、違うんだが。


胸の中で、小さく突っ込む。

けれど同時に、ほっとしている自分もいた。


理由はどうあれ、

彼女は――一緒に来てくれる。


それだけで、今は十分だった。


「……ああ」


短く返事をして、視線を逸らす。

顔が、熱い。


まあ、いい。

目的が何であれ、同じ場所へ向かえるなら。


一緒に歩けるなら。

それだけでいい。

それが、何より大事だった。


風が、やさしく頬を撫でる。


視界いっぱいに広がる、紫の花海。

揺れるスターチスが、陽を受けてきらめき、

まるで時間そのものが、ここだけ緩やかに流れているみたいだった。


「綺麗だよね」


彼女の声が、風に溶ける。

柔らかくて、あたたかい。


俺は、花ではなく、彼女を見て答えた。


「……本当に、綺麗だよ」


言葉の続きを、飲み込む。

――君が、だ。


彼女は、気づかないまま微笑んでいる。


「ここに来てよかった」


その一言が、胸の奥に深く落ちた。

ぎゅっと、何かを掴まれたみたいに、息が詰まる。


だから――逃げずに、言った。


「……俺が生きてる間は、そばにいてくれ。

行き先を決めるなら、俺の視界の中で」


思っていたより、声は低く、真剣だった。

冗談にも、軽口にもならない。


彼女は、少しだけ驚いた顔をして、

それから、いつものように笑った。


「もちろんだよ」


迷いのない返事。


――今だ。


心臓の音が、耳の奥でうるさい。

それでも、手は震えなかった。


指輪を、差し出す。


「生命が尽きる、その時まで――

君を愛し、選び続ける。

俺の人生を、受け取ってほしい」


花の揺れる音すら、遠くなる。


一瞬の静寂。

永遠みたいに長くて、刹那みたいに短い間。


それから。


「わぁ!

 綺麗な意匠の指輪だね!

 うん!! ありがとう!」


彼女は、笑って答えた。


……うん。


その一言に、すべてを賭けると決めた。


俺は、ゆっくりと彼女の薬指に指輪をはめる。

ぴったりだった。


外れる気がしない。


そのまま、そっと手を取って、

手の甲へ口づけを落とす。


紫の花が揺れる中で、

俺は確かに、この人生を差し出した。


―― この人生を、渡した。


視線が絡む。

彼女は、いつもと変わらない、優しい微笑みを浮かべている。


その無防備さに、胸がきゅっと締めつけられた。

逃げ道を残したままなのに、

それでも、全部を受け取ってしまいそうで。


「……キスしていい?」


声が、少しだけ低くなった。


「へ?」


戸惑う間も与えず、そっと距離を詰める。

唇が、触れる。


一瞬。

それだけなのに、胸の奥が熱を持つ。


彼女は驚いたまま、固まっていた。


「……今日、君を抱きたい」


言葉にした瞬間、

心臓が、うるさいくらいに跳ねた。


近すぎる距離。

彼女の呼吸が、わずかに乱れるのが分かる。


「あー……うーん……えーっと……」


視線が泳ぐ。

考えている、というより――整理している、という感じだ。


少しだけ間があって。


「まぁ……クオンなら、いいかな」


その一言で、世界が弾けた。


――やった!!


これは、完全に成功だろ!!


「やったぞーーー!!!」


思わず、雄叫びが飛び出す。


「ぷはっ! なにそれ、急に!」


彼女は腹を抱えて笑う。


笑われている。

でも、それでいい。


花は揺れて、風はやさしくて、

彼女は、俺のそばにいる。


触れられる距離で、

逃げない場所に。


――生命が尽きる、その時まで。


その誓いだけは、

確かに、ここに在った。


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