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嘘の世界1

刻線

作者: ハル

そこは、比べるためだけに作られた場所だった。

床一面に、同じ形の板が並んでいる。


違いは、端に刻まれた細い線の数だけだった。

線は増えたり減ったりしない。

ただ最初からそう刻まれているだけだ。


男は毎日そこに立ち、板を見比べた。

どれが同じで、どれが違うかを決める役目だった。


決めると、板の横に小さな石を置いた。

揃っていれば白い石、揃っていなければ黒い石。


理由はなかったが、そのやり方だけが残っていた。



彼の判断は正確だった。

少なくとも、そう扱われていた。


石の数はいつも合い、誰も疑わなかった。

比べることが成立している限り、場所は静かに回っていた。

回っているのに、どこにも進まなかった。


ある日、板の一つを見た瞬間、男は決められなくなった。

同じか、違うか。

その二つのどちらにも当てはまらなかった。


線の数は数えられたが、比べる先が消えた。

判断しようとした思考だけが宙に残り、石を持つ手が止まった。



その瞬間、規則が壊れた。

板同士の距離が揃っているのに、揃っていないように見えた。


数えた線は確かにそこにあるのに、数として扱えなかった。


男は一度だけ、判断を放棄した。

白い石でも黒い石でもない石を置こうとして、結局、何も置かなかった。



次の日、場所は元に戻っていた。板は並び、線は刻まれ、比べることができた。

誰も壊れたことに触れなかった。男も触れなかった。


前日に途中で終わった石の配置は、そのまま残っていた。

完成させようとした形が、欠けたまま置かれていた。


男はまた比べ始めた。

白い石、黒い石。

判断は戻ったように見えた。


ただ、数え終わったあと、いつもと違う感覚が残った。

石の総数が、合わない気がした。


数え直すと合っている。

もう一度数えると、どこかで一つ足りない。



どの板かは分からなかった。どの石かも分からなかった。

ただ、比べる行為だけが続き、場所は変わらず回っていた。


最後に残ったのは、きれいに並んだ板と、数が合っているはずなのに合わないという状態だけだった。


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