61 子供じゃないんだけど???
昼が進むにつれて、街の人混みはさらに密度を増していた。
歩いているというより、流れに押されて前に運ばれている感じに近い。
屋台の前で立ち止まる人。急に方向を変える人。
それぞれの動きが噛み合わなくて、足元が落ち着かない。
「……さっきより、歩きづらいかも」
ぼそっと言うと、前を歩くキースがわずかに速度を落とした。
ジークも後ろから距離を詰めてくる。
問題なく進めている――はずだった。
通路が少し狭くなった場所で、人の流れが急に横にずれた。
誰かの肩がぶつかり、別の誰かが押し返す。
一歩、体が持っていかれる。
視界が一瞬、知らない背中で埋まった。
「あ――」
声を出すより早く、腕を引かれた。
次の瞬間、肩にしっかりとした重みを感じる。
視界が元に戻り、さっきまで前にいたキースの横顔が、すぐ近くにあった。
囲うように、引き戻されていた。
「……危なかったな」
低く、短い声。
「あぁ、ありがとね」
軽くそう返すと、私はもう大丈夫だと思って、再び前に進もうとした。
――その時だった。
手首を、きゅっと掴まれる。
「ん?」
見ると、キースが私の手を取っていた。
力は強くないけど、離す気もなさそうな握り方。
「ちょ、なに?」
抗議するより先に、キースは前を向いたまま言う。
「同じことが起きる」
それだけ。
「いやいや、子供じゃないんだけど???」
思わずそう言うと、返事はない。
視線もこっちに向かない。
完全スルーだ。
後ろから、控えめな笑い声が聞こえた。
「……ふふ」
振り返ると、ジークが口元を押さえている。
「仕方ないですね。今日は人が多いですから」
「ちょっと、ジークまで」
文句を言いかけて、でも――
繋がれた手は、特に引っ張られるわけでもなく、ただそこにあるだけだった。
人の流れに飲まれそうになるたび、
その手が基準になるみたいに、位置が安定する。
あ、これ意外と便利かも。
キースとて繋いだのいつぶりかな?
ボーーーっと考えながら歩いてたらまた人にぶつかりそうになった。
キースがぶつからないようにしてくれたけど、その顔は明らかに呆れていた。
ごめんって。
人混みは、戦う相手よりやっかいかもしれない。
そんなことを、ぼんやり考えながら。
私は、繋がれた手をそのままに、前を向いて歩き続けた。




