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星霊とまったり旅するアストレリア  作者: はちみつレモン


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57 探索しよう


宿の部屋を出たのは、昼少し前だった。


朝から配信の準備と雑談で時間を使っていたせいか、

階段を下りる足取りがいつもより少し重い。


「……外、出ようか」


誰に言うでもなくそう口にすると、

キースは静かに頷き、ジークも「そうですね」と穏やかに返した。


食堂を抜け、扉を開けた瞬間――

空気が、少し違うと感じた。


「……あれ?」


足を止めて、無意識に周囲を見渡す。


カフレアの街は、普段と同じはずなのに、

どこか落ち着きがなく、微妙に騒がしい。


人の行き交う量は変わらない。

でも、歩き方が違う。


急ぐでもなく、立ち止まるでもなく、

何かを確認するように、視線を上に向けたり、通りの先を気にしたりしている。


「何かあるのかな」


小さく呟くと、ジークが街並みを眺めながら答えた。


「おそらく、風見祭りの準備が始まったのだと思います」


「もう?」


「準備期間の初日ですね。本格的なのは明日以降でしょうが」


言われて改めて周囲を見ると、

確かに、あちこちで“準備の途中”が見えてきた。


通りの端では、木箱を積み上げている人たち。

屋根の近くに布を掛けようとして、位置を調整している様子。

柱に巻かれた布も、色がまだ揃っていない。


派手さはない。

賑やかさも、まだ遠い。


けれど――

「これから何か始まる」空気だけは、確かにあった。


フローラが私の肩からふわりと飛び上がり、

ゆっくりと円を描くように街を見回す。


「りぃ……」


「まだ、静かだね」


私がそう言うと、ジークは小さく笑った。


「ええ。祭り前の街は、いつもこんな感じです」


キースは興味がないのか、通りの奥を見ているだけだった。


「……人の流れは増える。街中を歩くなら今のうちだ」


「そうだね」


配信で思った以上に時間を使ってしまったせいで、

少しだけ体を動かしたい気分でもあった。


それに――

ずっと室内にいると、考えが内側に籠もる。


外の空気を吸うだけでも、気分は変わる。


「今日はどうする?」


街を眺めながら、二人に聞いてみる。


キースは即答だった。


「フィールドだ。カフレア丘陵に出る」


「採取ですか?」


「それも含めてだ。

 街が騒がしくなる前に、周辺の状況を確認しておく」


ジークも頷く。


「探索には良いタイミングですね。

 祭り期間中は人も増えますし」


私は特に反対する理由もなく、軽く頷いた。


「うん。宿に籠もりっぱなしも良くないし」


フローラが嬉しそうに上下に跳ねる。


「りぃ!」


「はいはい、分かった」


街の中を歩きながら、私はふと立ち止まって振り返る。


飾り付けの途中の布。

まだ空白の多い通り。

準備を進める人たちの、少し浮き足立った表情。


「……風見祭り、どんなお祭りなんだろ」


独り言のように呟くと、ジークが答えた。


「カフレアでは、風と交易を祝う祭りです。

 外から来た人も歓迎されますし、商人も多く集まります」


「なるほど」


「祭りの間は、街の空気が一変しますよ」


今はまだ、その前段階。


静かだけど、確実に変わりつつある街。


キースが歩きながら言う。


「祭りは逃げない。

 今は、自分たちの動きを優先しろ」


「うん」


それに――

装備の受け取りも、シークレットミッションも、まだ先。


焦る理由はない。


門へ向かう途中、風が吹き抜ける。


カフレアの街の名にふさわしい、少し乾いた風。


フローラが風に乗ってくるりと回る。


「りぃー」


「楽しそうだね」


「りぃ!」


門を抜けると、視界が一気に開けた。


カフレア丘陵。

緩やかな起伏が続く草地と、ところどころに見える岩場。


街の音が、背後で少しずつ遠ざかっていく。


「……静かだ」


私がそう言うと、ジークが頷く。


「街がどれだけ賑やかでも、外は変わりませんね」


キースはすでに地形を確認している。


「この時間帯なら、採取も邪魔されにくい」


「了解」


私は足元の草を見ながら、ゆっくりと歩き出した。


祭りは、これから。

今日はただ、探索するだけ。


それでいい。


昼の風は穏やかで、

街のざわめきは、もう背中の向こうにあった。

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