56 雑談配信2
配信はそのまま続けていた。
視聴者数はじわじわ増えていて、コメント欄は終始流れ続けている。
私は静かに画面を見ながら、ぽつりと呟いた。
「……次は何の話しようか」
ただそれだけなのに、コメント欄が一気に沸いた。
“かわいい…”
“落ち着きすぎて逆に面白い”
“このテンションで配信できるの凄い”
そんなに?と思ったけど、まあいいか。
その時、コメント欄の流れがひとつの話題にまとまり始めた。
“昨日の50人抜きの話聞きたい!”
“あれ絶対ヤバかったでしょ”
“どうして勝てたの!?”
“殿下の顔が終始楽しそうだったのは何”
……結局そこに興味が集まるのか。
私は軽く息を吸って2人を見る。
「じゃあ……あの50人抜きの話でも、お願いしていい?」
キースとジークが静かに頷いた。
***
ジークが姿勢を整え、落ち着いた声で話し始めた。
「まず……一番危なかったのは、最初の囲まれそうになった瞬間ですね。
衛兵NPCは連携がとても優秀で……そのままだと数秒で押し潰されていました」
コメント欄が高速で流れていく。
“そりゃそうだわ”
“囲まれたら普通死ぬ”
“冷静に言うことじゃないのよ”
ジークは少し考えるように視線を落とした。
「でも……突破口を作らないと何も始まらないと思ったので。
そこを崩せたのが、勝てた理由の一つだと思います。
後半は……正直、体力が削れてきて足が重かったです」
私が見ていた限りでは、その“重さ”を感じさせない動きだったけど。
キースが横で小さく頷いた。
「疲労は明らかだったが……判断は切れていなかった。それが大きい」
“冷静に褒めてる殿下好き”
“分析の仕方が教官すぎる”
続いて、視聴者から質問が飛ぶ。
“ジーク様、一番しんどかったのどこ?”
ジークは少し表情を引き締めた。
「……隊長NPCとの戦闘ですね。
あの時はもう体力が限界に近かったので……。
あと一撃もらっていたら、負けていたと思います」
コメントが溢れる。
“隊長強いな!!”
“あれギリギリだったんだ…”
“負けかけてたとか信じられん”
ジークは苦笑しながら続けた。
「それでも……兄さんと比べれば、大したことはないですけど」
瞬間、コメント欄が荒れた。
“比較対象がおかしい”
“殿下を基準にするな!”
“兄が異常なんだよ!!”
私は机の上のフローラを見る。
フローラはまったく空気を読まず、のほほんと寝転んでいる。
「りぃ〜〜」
自由だなぁ……
***
キースが静かに口を開いた。
「ジークはよくやった。
剣を弾かれて飛ばされた時も、槍を拾って即座に戦い方を切り替えた判断は悪くない」
“殿下が褒めてる…”
“褒めてるのに内容が怖い”
“兄弟の信頼関係ほんといい”
ジークは素直に微笑んだ。
「ありがとうございます」
その笑顔だけで視聴者の反応が数倍になるの、本当に面白い。
***
そして、別の質問が流れ始めた。
“殿下ならどうやって50人抜きするの?”
キースはわずかに首を傾け、淡々と答えた。
「……まず囲まれないよう動線を潰す。
連携の中心になる者を落とし、崩す。
正面突破はしない。突破口を作ってから流せばいい」
“説明が戦術家”
“絶対強いじゃんこれ”
“実際にやったら5分で終わりそう”
“隊長NPC泣いちゃうよ”
ジークは少し笑った。
「兄さんがやるなら……そうなるでしょうね」
この兄弟、なんでこう冷静なんだろう。
***
コメント欄がいい感じに盛り上がってきたので、私は軽く息をつき、締めに入る。
「……なんか想像以上に濃い雑談になったけど、今日はこのくらいにしておくね」
“おつ!!”
“もっと聞きたい!”
“次の配信も絶対見る!”
フローラが机の上から画面に手を振る。
「りぃー!」
……配信、案外悪くないかもしれない。
私はウィンドウに手を伸ばし、静かに配信を切った。




