54 配信準備
「じゃ、マリさん。まずはウィンドウ開いて“メニュー”から“配信設定”押すっす!」
朝の食堂。
まだ人がまばらなテーブルに、私とキース、ジーク、そして張り切りすぎて椅子の上で正座しているカゲマルがいた。
「ほんとにやるんだ……」
「りぃ!!」
フローラは私よりやる気に満ちていた。
なぜ?
カゲマルは私の手元を覗き込みながら、食い気味に指示してくる。
「はい、そこっす!“配信準備”押すと……」
ぽん、と軽い音がして――
目の前に、銀色の小さな球体がふわりと浮かんだ。
真ん中にレンズがついていて、私の顔をじっと見ている。
「うわ、出た……」
「これがカメラか」
キースが冷静に観察し、ジークは興味深そうに手を伸ばす。
「触っても大丈夫なんですか?」
「大丈夫っす、耐久100あるんで!NPCには見えない仕様っすよ!」
なるほど、だから街中で配信しても問題にならないわけだ。
レンズがぴっと動き、私の顔を中心に画角を自動調整した。
「……あの、私しか映ってないんだけど?」
カゲマルが胸を張る。
「ここから人数設定っす!ほら、“映すプレイヤー”って欄があるっしょ?そこに――」
マリ、キース、ジーク
と入力する。
すると球体がふわっと後退し、3人分の距離まで自動でズームアウトした。
フローラも勝手にフレームの中へ入るよう調整されている。
「星霊はデフォルトで映る設定っすから安心っすよ。可愛いので映したほうが伸びるっす!」
「りぃ♡」
調子に乗ってるなぁ。
キースが腕を組んで呟く。
「便利すぎるな、この機能」
ジークも頷いている。
「初心者向けに設計されていると言っていましたが……ここまでとは」
私はようやく落ち着いて息を吐いた。
「……なんか、ほんとに配信者になったみたい」
カゲマルがさらに続ける。
「コメント欄も説明するっすよ!ここ、見えるっす?」
ウィンドウにチャット欄が表示された。
まだ配信を開始していないので空欄。
「コメントはここに流れるっす。閉じたい時は右上の×で閉じられるっす。おすすめはずっと開いたまま!コメント返しが上手い人は伸びるっす!」
「へぇ……」
「荒らしはスルーでOK!ヒドいのはシステムが勝手に消すっす!」
キースが冷たい声で言う。
「荒らしに反応するつもりはない」
「ジークさんも絶対人気出るっす!」
「え、僕ですか?」
ジークが軽く目を丸くしていて、少し面白い。
私はというと――
配信って意外と気楽なのかもしれない、なんて思い始めていた。
* * *
「じゃ、最後にこれ押せば配信開始っす!」
画面の下にある“配信開始ボタン”。
キースがちらりと私を見る。
「押すのはお前だ」
「まぁ、チャンネル私のだしね」
ジークも穏やかに微笑む。
「慣れてしまえばきっと楽しいですよ」
「りぃ!!」
ほんとにフローラはずっとやる気満々。
私は小さく息を吸った。
「……わかった。試しにやってみるよ」
「おおおおっ!マリさん最高っす!!」
カゲマルはテーブルをばんばん叩いて喜んでいた。
が、その直後。
「あっ、自分そろそろ呼び出しだったっす」
「呼び出し?」
カゲマルは残念そうに肩を落とした。
「黒猫レターが本格的に表に出るらしくて……今日はその準備会議があるんすよ。本当は……ほんとはっすね?自分もこのまま同行したかったんすけど……」
私が淡々と返す。
「仕方ないんでしょ?」
「そ、そうなんすけど……!!でも配信は絶対見るっすから!!推しはジーク様だけどマリさんの配信者力にも期待してるっす!!!」
……何を期待されてるんだろう、私は。
「じゃあ行くっす!!また会うっす!!」
勢いよく立ち上がり、
90度のお辞儀をしてから転がるように食堂を出ていった。
残った私たちは、しばらく無言でカゲマルの去った方向を見つめていた。
「……忙しそうだね」
ジークが小さく笑う。
「彼らしいですね」
キースはレンズ球体を一瞥した。
「まあいい。準備は整った。そのうち試そう」
私はこくりと頷く。
「うん……なんか、ちょっと楽しみかも」
「りぃ♡」
こうして、私たちの冒険に――
まさかの“配信”という新しい要素が加わることになった。
次は……どうなるんだろう。
少しだけ胸が高鳴った。




