53 配信、やってみない?
翌朝。
宿の柔らかい布団から半分身体を抜き出し、欠伸をひとつ。
……今日の予定、何しようかな。
装備もまだだし、採取もしたいし、料理も補充したいし……まあ、朝ごはん食べながら考えよう。
階段を降り、食堂の扉を押す。
すると――
聞き慣れた声が、少し真剣な温度で飛び込んできた。
「だからっすね!三人でやれば絶対バズるっすよ!!」
「……興味はないと言っているが」
「うーん……どうなんでしょう」
食堂の隅。
キース、ジーク、カゲマルの三人が机を囲んで座り、
妙に真剣な顔で話し込んでいた。
なんか……嫌な予感。
私に気づいた三人が、同時に顔をこちらへ向ける。
「あ、マリさん。おはようございます」
「おはよう……なに話してたの?」
席に座ると、カゲマルが勢いよく身を乗り出してきた。
「マリさん!三人で配信、やってみないっすか!!?」
……はい?
寝起きの頭に情報が追いつかない。
「配信って……あの、ゲーム実況的な?」
「そうっす!今まで撮ってきた動画、めちゃくちゃ伸びてるんすよ!だったらいっそ、リアルタイムでやった方がウケると思うっす!!」
いや、“ウケると思う”って言われても。
ジークが少し困ったように笑う。
「昨日の衛兵訓練の動画……SNSで話題になっているらしいんです」
キースは腕を組んだまま淡々と言う。
「カゲマルが“需要があるから続けろ”とうるさい」
カゲマルは、ぱあっと明るい顔になる。
「だって!殿下とジーク様の戦闘、需要しかないっすよ!二人とも映えるし!マリさんも人気ですし!ファン爆増っすよ!!」
ファン……ねぇ。
まあ、増えそうだなとは思うけど。
私は首をかしげた。
「でも、私もこの2人もSNS見るタイプで、やる側じゃないでしょ?」
「自分がぜーんぶサポートするっす!操作も設定も任せてくださいっす!」
……いや、そういう問題?
キースは即答した。
「やらない」
ジークも丁寧に首を横に振る。
「すみません……僕も配信は不慣れでして。向いていないかと」
うん、だよね。
なら私も――
「私は……見る側だからなぁ。特に興味ないかな」
と言った瞬間。
カゲマルが机に突っ伏して震えた。
「三人ともやる気ゼロってあります!?ファンが泣くっすよ!? 需要があるのに!!」
知らないよ。
誰も配信やりたいなんて言ってないし。
カゲマルは必死に言葉を探し、そして――
「……実はですね」
急に声を潜めた。
「配信がランキングで上位に入ると……ゲーム内通貨が貰えるっす」
「…………え?」
一瞬、心臓の鼓動が変わった。
お金……もらえる……?
素材を売ってやっと財布が少し潤ったけど、装備を買うには全く足りてない。
装備を変えたとしてもその後の素材を買える余裕も欲しい。
これは……貴重な収入源では?
フローラが肩の上で小さく揺れる。
「りぃ?」
……うん、そうだね。
私は静かに手を挙げた。
「……やる」
カゲマルが弾け飛んだ。
「ま、マジっすか!!?マリさん!!?」
「お金入るならやるよ」
即答だった。
ジークが苦笑する。
「分かりやすいですね、マリさん」
キースはため息をひとつ落とす。
「……仕方ない。お前がやるというなら付き合ってやる」
巻き込まれたのは確定らしい。
カゲマルは椅子から転げ落ちそうなくらい喜び、
「では!今日、配信の設定を全部説明するっす!!
三人のチャンネル……“アストレ最強兄弟チャンネル(仮)”……!」
「タイトル酷くない?」
「仮なんで!!」
フローラは頬を膨らませてカゲマルの周りを飛び回る。
「なんすか!?」
「フローラが入ってないから怒ってるわよ」
「りぃーー!!」
「仮なんで!決まったわけじゃないっすよ!」
私は紅茶を一口飲みながら、心の中でつぶやいた。
――なんでだろう。
普通の旅じゃなくて、
どんどん何かに巻き込まれていく気がする。
でも、不思議と嫌じゃない。
「……じゃあ、準備よろしく、カゲマル」
「任せるっす!!!」
こうして、私たちは――
まさかの“配信デビュー”をすることになった。




