52 訓練4
砂が跳ね、鋼の冷たい音が風に混ざる。
隊長の剣が走り、ジークの槍が受け止め、衝撃で周囲の砂が散った。
「……っ!」
ジークの腕がわずかに震えている。
疲労が限界に近いのが見ていて分かった。
隊長は逆に、まだ余力があるらしく、押す力が重い。
でも、ジークは真正面からは受けない。
衝撃を横にそらし、隊長の体勢が、ほんの一瞬だけ傾く。
その“隙”に、ジークは槍を滑らせて、隊長の剣を外側へ弾いた。
金属音が鋭く弾ける。
「……ほう」
隊長が驚いたように息を漏らす。
でもすぐに、踏ん張って体勢を立て直した。
そこからは、数合の応酬。
金属がぶつかる度に、周囲の空気が震える。
ジークは息が荒く、汗が頬を伝って落ちていく。
隊長も呼吸は乱れているけど、表情にはむしろ楽しさが見えた。
――この隊長、強い。
ただ強いんじゃない。
“現場で鍛えられた強さ”を持ってる。
キースが隣で静かに言った。
「……悪くないな、あの男」
評価する時の声だ。
珍しく、少しだけ満足げだった。
私はフローラを抱き直して、戦いの行方を見つめた。
「り……ぃ……」
フローラも真剣そのもの。
* * *
隊長が足をずらす。
砂がほんの少し舞い上がる。
それだけで、ジークは次の攻撃が来ると察した。
フェイント混じりの細かい剣筋。
大ぶりは一切ない、熟練者の削り合い。
ジークは必死に受けていたけど――
槍の柄で受けた時、衝撃が想像以上に重かったのか、大きく後退した。
「……っ!」
足元の砂が流れ、踏み込みがずれ、体勢が崩れる。
倒れる――そう思った。
けれど。
ジークは槍を地面へ突き立て、その反動で身体を回転させた。
砂が大きく円を描いて舞い上がる。
その回転の勢いを殺さず、槍の石突きを隊長の胴へ――
ガッッ!!
「ぐっ……!」
隊長が後ろへ弾かれ、膝をつき、そのまま砂の上に倒れ込んだ。
訓練場が、静まり返る。
次の瞬間、衛兵たちの声が重なった。
「訓練終了!! 勝者、ジーク様!!」
フローラが勢いよく私の胸元へ飛び込み、
「りぃーー!!」
と喜びの声を上げた。
私は小さく息を吐いて笑う。
「……よかった。ほんと、頑張ったね」
カゲマルはというと――
「ジーク様ぁ……最後の回転……あれ……反則級にかっこよかったっす……!」
撮影しながら感極まっていた。
* * *
隊長がゆっくり起き上がり、胸に手を当て、深く頭を下げる。
「……これほどの方に剣を教わる日が来るとは。ありがたき幸せ」
ジークは驚いたように瞬きをし、困ったように笑った。
「い、いえ……こちらこそ、勉強になりました」
その横でキースが近づき、静かに言う。
「……よくやった。十分だ」
ジークの表情が緩む。
兄のその一言が何より嬉しいのが、すぐ分かった。
* * *
その時だった。
ウィンドウがふわりと開いた。
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《ミッション達成》
【衛兵NPC 50人抜き完了】
・報酬:老教官からの紹介状 ×1
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「……紹介状?」
ジークが手に取って首を傾げる。
隊長が一歩前へ出て、深く頷いた。
「それは……アリオティアの詰所にお持ちください。
そこで見せれば、正式な鍛錬を受ける資格が与えられます」
「アリオティア……?」
ジークは聞き返す。
キースも小さく眉を寄せた。
私もピンと来ない。
「そんな街、聞いたことないけど?」
隊長は穏やかに微笑んだ。
「いずれ辿りつくでしょう。その時にお使いください」
……つまり、まだ行けない街ってことか。
キースが静かに納得したように頷いた。
「なるほど。未開放エリアか」
すると、隣のカゲマルがぶわっと震えた。
「アリオティア……!?
すっごいすっごいすっごい情報っすよこれ!!!
未公開の上級騎士エリアっす!!」
興奮が抑えきれないらしく、足踏みしていた。
「隊長さん……もしかして、元騎士っすか……?」
隊長は少し照れたように笑った。
「はい。かつては騎士団の一員でした。
今は退役し、こうして若い衛兵たちの指導をしています。
……ジーク様と戦ったのも、隊長としてではなく “教官” としてです」
「あー……フリしてたんだね」
私が言うと、教官は苦笑した。
「見破られても問題ではなかったのですが……
あなた様ほどの方に稽古をつけさせて頂けたのは、本当に光栄でした」
ジークは頬を赤くし、深く頭を下げた。
「こちらこそ……ありがとうございました」
衛兵たちが一斉に整列し、ジークも敬礼を返した。
砂ぼこりの中、夕日の光が差し込み、
その光景がやけに綺麗に見えた。
私はフローラを抱きながら、そっと呟いた。
「……なんか、すごい場面に立ち会った気がするね」
「りぃ……!」
フローラも満足そう。
カゲマルはもう、半分泣きそうな顔でカメラウィンドウを操作していた。
「自分……絶対これ編集して永久保存するっす……!」
キースは淡々と歩き出しながら言う。
「行くぞ。次の予定を決める」
ジークが紹介状を握りしめ、
ゆっくりと私たちのもとへ戻ってきた。
「……マリさん。終わりました」
「うん。お疲れさま」
ほんとに頑張ったねジーク。




