51 訓練3
ジークが低く構え、
衛兵たちの足が同時に動いた。
砂が舞い上がり、訓練場の空気が一段と張り詰める。
けれどジークは――微動だにしなかった。
息を整え、視線だけで全員の動きを読み取っている。
その姿は、どこか凛としていて……不思議と安心感すらあった。
最初の数名が突っ込んできた瞬間。
バシュッ。
ジークが踏み込み、一撃で一人、また一人を弾くように倒していく。
動きは疲れているはずなのに、無駄がなく、正確で、迷いがない。
「……ジーク様、すげぇ……」
カゲマルが撮影しながら小さく呟いた。
私はというと、静かに見ていた。
驚きはもう通り越してしまったのかもしれない。
フローラは肩の上で「り……」と緊張した声を漏らしつつ、
ジークの動きをじっと追っている。
数分後。
砂煙が落ち着いた頃には――
残っている衛兵は、ひとりだけになっていた。
隊長だ。
銀の装備を纏い、びしっと背筋を伸ばしたまま、
先ほどから一歩も動かずジークを見続けていた男。
ジークは息を整えたまま、隊長に向き直る。
隊長は胸に手を当て、深々と頭を下げた。
「……さすがでございます、ジーク上官」
「いえ、僕は上官では――」
「上官でございます」
完全に思い込みで断言された。
ジークは苦笑し、
私は「まぁいつものことだし」と受け流す。
キースは静かに腕を組んだまま、
ほんの少しだけ目元を細めていた。
興味深いものを見る時の顔。
隊長は剣を構えた。
「この私が最後。どうか……ご指導願いたい」
嬉しそうに言う。
本当に嬉しそうに。
ジークは姿勢を正し、静かに頷いた。
「よろしくお願いします」
空気が一瞬で変わる。
砂がざり、と鳴った。
次の瞬間。
キィンッ!!
甲高い金属音が響き渡る。
ジークと隊長の剣が激突したのだ。
二人の動きは、他の衛兵とは格が違った。
隊長の剣は早く、重く、読みづらい。
ジークは受け流すたびに足を滑らせかける。
疲労が出始めているのが分かる。
カゲマルが息を呑む。
「……ジーク様、ふらついてるっす……」
私はフローラを胸に抱き寄せながら、
ただじっと二人を見守った。
隊長の踏み込みが深くなる。
ジークは剣を構え直し、再び迎え撃つ。
ガンッ!!
重い衝撃音。
隊長の一撃は、今までよりも明らかに重かった。
弾かれたのは――ジークの剣だった。
「……っ!」
剣は大きく宙を舞い、地面に転がる。
隊長は追撃に入ろうと踏み込む。
あれやばいんじゃない?
「りぃっ!!」
「ジーク様ぁ!!」
ジークは咄嗟に横へ飛び、直撃を避けた。
けれど武器はない。
隊長は追わず、むしろ感心したように頷いた。
「武器を落とされても体勢を崩さぬとは……見事でございます」
完全に褒めている。
ジークは荒い呼吸のまま、隊長を見据える。
「……まだ……終わってません……!」
その瞬間、ジークの視線がほんの一瞬だけ周囲を走った。
倒れている衛兵たちの中に――
一本の槍が落ちている。
キースの視線も同じくそこへ向いていた。
「……選択としては悪くない」
ジークは迷わず駆け寄り、槍を拾い上げた。
カゲマルは興奮気味に小声で言う。
「槍に……持ち替えたっす!? 武器変えて戦うとか……本気の剣士でも難しいのに……!」
私は静かに頷く。
本当に……すごい。
隊長は槍を構えたジークを見て、
嬉しそうに目を細めた。
「では――参ります!」
ジークは槍を低く構え、慎重に間合いを取る。
隊長は剣を持ち替え、砂を蹴った。
ガッ!!
一気に距離が詰まり、
槍と剣が再び激しくぶつかり合う。
砂が舞い、風が生まれ、空気が震えた。
キースは静かに言う。
「……ここからが山場だ」
私は息を呑む。
フローラはじっと戦場を見つめ、小さく震えている。
カゲマルはカメラウィンドウを開き、全身を固めていた。
槍を構えたジークが、疲れた身体で踏ん張りながらも、
確実に隊長の攻撃を受け流していく。
隊長もまた、本気だ。
剣の軌道が鋭く変化し、風切り音が上がる。
ジークは奥歯を噛みしめ、反撃に転じようとした。
砂が高く舞った。
隊長が大きく剣を振り上げた。
ジークは槍を握り直す。
二人の視線が交錯する。
空気が――止まったように感じた。
そして。
二人は、同時に踏み込んだ。




