46 素材はあるけど、お金がない
キャシーの店を出ると、カフレア特有の乾いた風が頬をかすめた。
「……賑やかな人だったね」
ただの感想を小さく口にすると、肩に乗っていたフローラが羽をゆっくり揺らす。
「りぃ」
あの賑やかさの余韻がまだ残っているのか、フローラも少し落ち着かない様子だった。
キースはすでに前を歩いていて、いつも通り表情に変化はない。
「受け取りは一週間後か」
「楽しみですね。キャシーさんの作る服」
ジークが穏やかに言い、私はそれに軽く頷く。
……まあ、私は買えないんだけど。
そんなことを思いながら、周囲を何となく見回す。
「あれ。カゲマルいないね」
ジークがすぐに答えた。
「街に入ってすぐに、何者かに呼ばれて離れていきました。情報屋らしい動きでしたね」
「隠れるのが好きな奴だ。気にする必要はない」
確かに。
あの人、気配の消し方が上手すぎる。
もう慣れたのもあって、特に驚きもない。
そのまま少し歩いていたけれど……ふと思う。
――最近、お金の確認してなかったな。
素材は増えてきた。
少しは余裕があると信じたい。
私は落ち着いた動作でインベントリを開く。
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■ 所持金:570G
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■ 所持アイテム:
・草影のケルプホーンの角 ×1
・草影の柔毛 ×3
・ブルースライムキングの核 ×1
・ブルースライムの粘体 ×5
・薬草 ×8
・川魚 ×3
・初級ポーション ×5
・調味料(少し)
・経験珠(小×2、中×1)
………………
………………
………………
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数秒考えて、私はそっとインベントリを閉じた。
「……うん」
フローラが覗き込むようにして「り?」と首を傾げる。
「思った以上に……少なかったね、お金」
「りぃ……」
慰めてくれてるのか、ただの反応なのかは分からないけど、とりあえず優しい音だった。
キースが歩きながら言う。
「金策が必要だな」
「まあ、そうなるよね」
ジークが続ける。
「素材は揃っていましたし、ギルドで買い取ってもらえば十分な額になりますよ。ブルースライムキングの核は高値です」
「核ってそんなに高いんだ」
「扱いが難しい分、価値がありますから」
納得。
ただ……インベントリの残金は、どう見ても“初心者の所持金”だった。
「薬草もあるし、纏めて売るのが手っ取り早いな」
キースがそう言うので、私も素直に頷いた。
「じゃあ、ギルドに行こうか」
フローラは短く羽を震わせて返事する。
「りぃ」
その音に、少しだけ気持ちが軽くなる。
ギルドへ向かう道の途中、カフレアの街並みは相変わらず騒がしく、露店の呼び声が風に混ざっていた。
この街は商業都市だけあって、人の流れが止まらない。
私たちみたいな旅人も多いし、プレイヤーもちらほら見かける。
そんな賑わいの中を歩きながら、私は小さく息をついた。
……お金はないけど、素材はある。
それだけ分かっただけでも良し、としておく。
ポーションもまだ五本あるし、当面困るわけではない。
食料だってあるし、フローラは魚料理を異様に気に入っていたし。
まあ……なんとかなる。
ギルドの建物が視界の奥に見えてきたところで、私はようやく口を開いた。
「……よし。じゃあ売ってきますか」
「任せる」
「僕たちも同行しますよ」
フローラも軽く跳ねる。
「りぃ!」
そうして私たちは、次の準備へ向かって歩き出した。
冒険のための第一歩は、案外こういう地味なところなのかもしれない。
でも、それはそれで嫌いじゃない。




