45 Tailor Cathy
カフレアの街に着いた私たちは、紹介された通りの路地を進み、少し奥まった場所にある小さな店の前で足を止めた。
看板には可愛い文字で《Tailor Cathy》とある。
……テイラーってことは、服屋さん?
防具じゃなくて服なのが気になるけど、とりあえず入ってみる。
カラン、と鈴が鳴き、私たちは店の中へ足を踏み入れた。
棚には色とりどりの布が並び、壁には可愛い服やカッコいい服がかかっている。普通の服屋というより、まるでオーダーメイド専門のブティックみたい。
その真ん中で、三角巾とエプロン姿の女の子が鼻歌を歌いながら布を裁断していた。
「〜♪ ……っと?」
視線を上げた瞬間、彼女の顔が止まる。
そして。
「ひゃあああああ!!???」
全力の悲鳴とともに、キャシーという名前のそのプレイヤーは尻もちをついた。
「だ、殿下!? ジーク様!? なんでなんでなんで!? なんでうちみたいな弱小店にぃぃ!?」
……うん、気持ちは分かるけど落ち着いて。
キースはというと、まったく動じず淡々と言った。
「装備を更新したいだけだ」
「そ、装備……!? 初期装備……まさか、まだ初期装備……?」
キャシーが震える手でキースとジークの服を指差す。
ジークは苦笑して頷いた。
「はい。そろそろ更新したいと思ってまして」
キャシーは信じられないとばかりに頭を抱えた。
「うそ……美形兄弟が……初期装備……!? それ……それは人類の損失……!!」
なんでそんな熱量あるんだろう。
私は肩に乗ったフローラと目を合わせる。
「りぃ……?」
「うん、私も同じ気持ち」
キャシーはすぐさま立ち上がり、勢いよく机に両手をついた。
「オーダーメイドなら! 最高の装備作れるよ!!
ここにある服は全部、高性能のステータス付き! ただ値段も高くて……誰も買ってくれないの……!」
そう言って少ししょんぼりしていたけど、すぐにまたキースたちを見て目を輝かせた。
「でも! お二人なら絶対似合う!! 作らせて!!」
キースはその迫力に押されたわけではないだろうけど、淡々とうなずいた。
「装備が更新できるなら構わない」
ジークも優しい笑みで答える。
「僕も、性能より動きやすさを重視したいです」
キャシーの目がキラーンと光った。
「動きやすさ重視……了解!! 他にご希望は!?」
「特にない」
「ありません」
二人が同時に言うと、キャシーは両手で胸を押さえた。
「兄弟……最高……」
感動するポイントそこなの?
「じゃああとはこっちでデザイン考えます! 世界に一つだけの装い、期待しててね!!」
キャシーはもう完全に職人モードで、メモ帳に勢いよく書き込んでいく。
一方の私は――
「えっと、アストラリスト用って……あったりします?」
キャシーは一瞬止まって、申し訳なさそうに首を傾げた。
「アストラリストは特殊装備だから、完全オーダーメイドだよ。
……値段は、まあ……うん。覚悟が必要」
提示された見積もりを見た私は、
「無理。お金が一瞬で消える」
と即答した。
ジークが穏やかに笑ってくれる。
「マリさんは今のままでも十分ですよ」
キースも淡々と続ける。
「壊れていないなら問題ない」
それフォローになってるのかな……。
キャシーは「じゃあ今回は二人だけね!」と明るく言い、最後にメモ帳を閉じて宣言した。
「ゲーム内時間で一週間後に取りに来て! 全力で仕上げるから!」
「わかった」
「楽しみにしてます」
二人が揃って答えると、キャシーは満面の笑みで手を振った。
「絶対最高に似合う服にするからねーー!!」
店を出た瞬間、私はぽつりと言った。
「……なんか、装備更新ってこういう感じじゃなかった気がするんだけど」
フローラが頷く。
「りぃ」
ジークは優しく笑った。
「でも、良い店に出会えましたね」
キースは空を見上げながら言った。
「……あとは出来栄え次第だな」
――どんな“装い”になるんだろう。
ちょっと楽しみになってきた。




