41 水辺のブルースライムキング
川沿いの風がひんやり冷たくなってきた頃、
キースがふと足を止めた。
「……水音が乱れている。前方だ」
ジークもすぐに剣へ手を伸ばす。
「間違いありません。スライムの気配が……複数」
私の横で、カゲマルがウィンドウをぱっと開いた。
薄く半透明の“撮影画面”が空中に現れる。
「よっしゃ……! 撮影準備万端っす!
ジーク様、今日も最高に撮らせてもらうっす!!」
「勝手に推すな」とキースが呟いたが、カゲマルは気にしてない。
むしろさらにテンションが上がっている。
「いや〜殿下もカッコいいっすけど、自分はやっぱジーク様推しなんで!」
「りぃー?」
フローラはよく分かっていない顔で首を傾げた。
私は笑いながら歩く速度を緩める。
「カゲマル……撮りながら戦闘できるの?」
「任せてくださいよ! 自分、忍者目指してるんで、“走りながら撮影”得意っす!」
忍者……そんなスキルあったっけ?
そう思った瞬間だった。
川が、不自然に“盛り上がった”。
ぶく…ぶくぶく……!
「来ます!」
ジークが叫ぶと同時に、水が大きく跳ね上がる。
ドオオオオン!!!
巨大な青い塊が水面から飛び出した。
全身がゼリーみたいに震えて、中心部だけが怪しく光っている。
《水辺のブルースライムキング》
「でかっ……」
フローラは私の肩にしがみつきながら、羽を震わせた。
「り、りぃ……!」
するとカゲマルが、めちゃくちゃ震えながらも撮影ウィンドウを向ける。
「っしゃああああ!!! 撮れてる!!でけぇ!!これ絶対バズるっす!!」
いや、そんな大声出して大丈夫?
スライムキングが身体を揺らすと、水の壁が波打つように押し寄せてきた。
「くるぞ!」
キースとジークが同時に前へ出た。
2人の動きは、やっぱり次元が違う。
キースは一歩目で相手の動きを読み切り、ジークは二歩目でその未来へ飛び込む。
波がぶつかる直前、
2人とも“水の上を滑るように”横へ跳んだ。
「うそ……水の上であんな動きできるの……?」
「殿下とジーク様は特別っす!!」
カゲマルが隣で必死にカメラを追いながら言う。
こっちも驚く暇がない。
スライムキングが分裂した分身スライムが、
私たちへぞろぞろ迫ってくる。
「マリさん、気をつけて!」
ジークの声が飛ぶ。
「うん! フローラ、行くよ!」
「りぃ!!」
フローラが私の前に飛び出し、
手をきゅっと握ると花びらの粒が光を帯びる。
ぱしゅっ!
花弾が連続で飛び、スライムを弾き飛ばす。
その頃カゲマルは――
「やばっ……スライム来てるけど撮影優先したい……いやでも死にたくない……よし、戦いながら撮る!!」
と言いながら、器用に短剣でスライムを切りつつ撮っていた。
器用すぎでは?
「ふっ!」
花弾で小型スライムは片付いたけど――
本体はまだデカいまま。
スライムキングが川の上を滑り、兄弟へ向けて突進する。
「兄さん、来ます!」
「分かっている」
キースは淡々。
だけど目つきは明らかに“狩る側”。
スライムキングが跳ね上がり、巨大な水弾を落としてくる。
その瞬間。
「キース!右!」
私が叫ぶと、キースの目がわずかに細められる。
「……助かった」
「どういたしまして」
カゲマルが興奮して叫ぶ。
「今のいいっす!! 殿下とマリさんの連携!!
このシーン絶対切り抜くっす!!」
そんなこと言ってるが、スライムキングはまだ健在。
フローラが花粉を散らせて動きを少し鈍らせると、
キースとジークが互いに頷き合った。
「ジーク、行くぞ」
「はい!」
まるで鏡合わせのように走り、水しぶきを同じ高さで上げた。
そして――
二つの軌跡が、青い巨体を同時に貫いた。
ドンッ!!
スライムキングの身体が光の粒となって霧散していく。
カゲマルはその瞬間を確実にウィンドウに収めながら叫んだ。
「っしゃーーーっっ!!!ジーク様!!!殿下!!!今のは神シーンっす!!!!!」
私は深く息をついた。
「……終わった……?」
フローラが肩の上で大きく頷いた。
「りぃ!!!」
キースは少し濡れた髪を整えながら言う。
「次はカフレアだ。気を抜くな」
ジークも穏やかに微笑む。
「皆さん、お疲れさまでした。良い戦いでしたね」
そしてカゲマルは――
満面の笑みでウィンドウを抱え込んでいた。
「今日の撮れ高、マジで最高っす……!!!自分……編集するっす……これは絶対に伸びるっす……!!!」
まあ……
なんだか楽しそうでなにより。




