40 カゲマル参上!
ネリスの村を出て少し歩いたころ、小川の水音がさらさらと心地よく聞こえていた。
フローラは水際をふわふわ飛び回り、時々水面をつついて遊んでいる。
「もう、濡れないようにね?」
「りっ♪」
完全に聞く耳ないな、これ。
私がのんきにそんなことを思っていた時だった。
キースがふいに足を止め、周囲へ鋭い視線を向けた。
風の音しか聞こえない草原で――彼だけが何かを察知していた。
「……隠れてないで出てこい」
え、誰に?と思った瞬間。
茂みの奥から、ひょこっと黒い影が顔を出した。
「ど、どうもっす……カゲマルっす……」
忍者のような軽装、足音のしない動き。
そして、語尾が特徴的。
あ。
動画撮ってたシーフの人だ。
フローラが「りぃ?」と警戒気味に私の肩に戻ってくる。
カゲマルはそろそろとキースの前まで歩み寄り――
次の瞬間。
土下座した。
「お、お願いっす!! 自分を同行させてほしいっす!!撮影目的なんすけど!!!」
「うわ、正直すぎ……」
思わず私は呟いた。
ジークは少し困った顔。
キースは明らかに呆れてため息をついた。
「撮影目的でついてくると言う奴は初めてだな」
「す、すんませんっす……!」
しばし沈黙。
三人で顔を見合わせ、
『まあ、ここゲームだし……別にいいんじゃない?』
という結論に落ち着いた。
許可……っすか!? ありがてぇ……!」
カゲマルは地面に額をぶつける勢いで感謝していた。
***
しばらく歩きながら雑談していると、カゲマルがぽろっと口を滑らせた。
「自分、黒猫レター所属っす。情報屋の……」
その瞬間、キースの目が細まった。
「黒猫レター、か。なら交渉しよう」
「ひっ!?」
黒猫レター――
どんな噂にも敏感で、精度の高い情報を扱う有名クラン。
ちょっと興味が湧くよね。
でも、キースの“交渉モード”が発動すると、だいたい相手が潰れるんだよなぁ。
案の定、カゲマルは肩を跳ねさせた。
「話せ。カフレアで“何”がある?」
「じ、実は……星霊関連のシークレットミッションが発生する噂があるっす……」
「星霊!?」
「りぃっ!?」
私とフローラの声が重なった。
キースは明らかに興味を深める。
「詳細を」
しかし――カゲマルは手でストップをかけた。
「こ、ここからは……対価をもらうっす」
キースがゆらりと笑った。
「……面白い。何が欲しい?」
「ひぃっ!? そ、その笑い反則っす……!!
で、でも……殿下の写真一枚でいいっす!!」
「写真でいいんだ……」
「安いですね?」
「全然安くないっす! 殿下の写真は貴重なんすよ!!」
フローラも「りぃ〜」と呆れていた。
***
結局、キースは観念して写真撮影に応じることに。
カゲマルは手が震えすぎてカメラが安定しない。
「ちょ、ちょっと……動かないでほしいっす……尊い……」
「早くしろ」
「は、はいっす!!」
パシャッ!
カゲマルは撮れた写真を見て深く息を吸い込み――
「一生の宝っす!!!」
……いや、過剰反応すぎるわ。
***
「対価は払った。話せ」
キースが腕を組むと、カゲマルは慌てて口を開いた。
「カフレアには……“眠ってる星霊を目覚めさせる”シークレットミッションがあるらしいっす。
発見者はまだほぼゼロっす。攻略情報も全然出てないっす」
「……興味深い」
キースの声がわずかに弾んだ気がした。
私はフローラを見る。
「りぃ?」
「行こうね、フローラ」
「りぃ!!」
フローラは嬉しそうに跳ねる。
***
カゲマルはというと――
フローラに手を振られて泣き崩れていた。
「か、かわ……可愛いっす……尊い……っす……」
キースは呆れたようにため息をつく。
「……騒がしいやつが増えたな」
ジークは優しく苦笑していた。
私はというと――
にぎやかな旅も悪くないなと思っていた。
「じゃ、カフレアへ向かおっか」
「りぃーー!!」
こうして、新しい仲間(?)カゲマルを連れ、
私たちは次の街へ向けて歩き出すのだった。




