39 運営からメールが来た
ネリスの朝は、空気が透き通っていて気持ちがいい。
今日からまた旅が続くと思うと、胸の奥がちょっとだけそわそわした。
「さてと……インベントリの整理も終わり。料理も補充したし、ポーションもOK」
独り言をつぶやくと、フローラがふわっと私の前に降りてきて羽を揺らす。
「りぃ!」
「はいはい。分かってるよ、早く行きたいんでしょ?」
そんな平和な準備の時間だったのに――
ピコンッ。
「ん?」
キース、ジーク、そして私。
三人の目の前に、同時にウィンドウが開いた。
視線が自然と重なる。
「……え?」
内容は、思った以上に衝撃的だった。
⸻
『公式PV制作のため、あなた方の“真剣勝負の映像”を使用させていただけませんか?
SNSで大きな反響があり、ユーザーアンケートでも採用希望が多数寄せられています。
使用に同意される場合は【了承する】を押してください。』
⸻
「……公式……PV……?」
私はぽかんとウィンドウを見つめた。
キースは淡々と言う。
「SNSでの再生数は異常だった。こうなるのは予想できた」
ジークも少し肩をすくめた。
「それだけ注目されてしまった、ということですね。光栄ではありますが……」
フローラは横で「りぃ?」と首をかしげている。
事態はそこそこ大ごとだよ。
私は二人に向き直った。
「えっと……どうする? 断ってもいいのかな、こういうのって」
キースは少し目を細めて言った。
「嫌なら断ればいい。ただ――」
「ただ?」
「ここまで目立った後で今さら隠れても、意味は薄い」
ジークも頷く。
「すでにSNSでは広まっていますし、公式で使われるかどうかは……正直、大差ありません」
「……それはそうなんだけどさぁ……」
なんかもう、抵抗する段階じゃない気がしてきた。
フローラはぐるぐる嬉しそうに回っている。
「りぃ!!」
「……あなたは何でも楽しそうでいいよねぇ……」
私は深呼吸して、もう一度ウィンドウを見た。
「じゃあ……了承でいいかな」
キースもジークも迷いなく頷いた。
三人同時に、【了承する】を押す。
次の瞬間、追加メッセージが飛び込んできた。
⸻
『ご協力ありがとうございます!!
あなた方の戦闘は開発・広報チームに大好評でした!
PV完成をお楽しみに!!』
⸻
「……テンション高いな、運営」
キースが少し呆れた声で言う。
ジークは柔らかく笑っていた。
「心労が多いと聞きますし……こういう話題は嬉しいのでしょうね」
「いや、どんな理由でも……やっぱり恥ずかしいよこれ……」
私はウィンドウを閉じて、額を押さえた。
すると、フローラが私の頬にこつんと触れてくる。
「りぃっ」
「……はいはい。わかったよ。行こうか」
気を取り直して村の出口へ向かうと、風が心地よく吹き抜けた。
キースが前を歩きながら言う。
「次の街までは少し距離がある。気を抜くなよ」
「うん。頑張る」
ジークも振り返って微笑む。
「良い旅になりますよ、きっと」
フローラは先導するようにぱたぱた飛んだ。
「りぃーー!!」




