38 運営1
アストレリア・オンライン運営本部――
今日も相変わらず地獄だった。
「バグ報告また増えてるぞー!誰だ、これ担当できるやつ!」
「問い合わせ、昨日の三倍になったんだけど!?」
「サーバー負荷グラフが跳ねてる!誰か見て!!」
あちこちで椅子が軋み、社員のため息が連鎖する。
(……しんど……)
心の声が漏れそうなほど、全員が限界だった。
そんな中、突然、社内チャットに通知が飛ぶ。
《共有:とりあえず見て。疲れ吹き飛ぶから》
添付されたのは一本の動画。
……今忙しいんだけどな……。
ぼやきつつも、好奇心が勝ち、動画を再生する。
画面に映ったのは――
ネリス村外れの小川で向かい合う“美形兄弟”の姿。
……あれ?この二人って……噂の……?
再生が進むと、空気が変わった。
キースの静かな構え、ジークの緊張を含んだ息づかい。
金属音、水しぶき、木々の揺れる音。
そして――
動画の中、キースが眉を寄せて不機嫌そうに視線を逸らす。
そのワンシーンで――
「ひっ……尊い……」
「殿下……なんで不機嫌でも絵になるんだ……」
さっきまで心が死んでいた社員たちの目が、一斉に輝き始めた。
その瞬間。
容赦ないキースの一撃でジークが腹を押さえ膝をつくシーン。
「きゃっ……!!」
女性社員が小さく悲鳴を上げた。
「え、え、今の……えぐ……かっこよ……」
別の女性社員は椅子からずるっと滑り落ちる。
男性社員は眉をしかめ、画面に顔を寄せる。
「動きが速すぎて追えねぇ……」
「これ実装してない派生モーションじゃないか?」
「いや、リアルスキルでシステム補完されてるな……こえぇ……」
動画が終わる頃には、運営フロアの空気が明らかに明るくなっていた。
「これ……すごくないか……?」
「久々にテンション上がったわ……」
まるで社内の疲労が一撃で浄化されたかのようだった。
誰かがぽつりと言った。
「……これ、PVに使えそうじゃない?」
その瞬間。
「編集班!!この動画素材にPV作れ!!すぐ準備しろ!!」
「広報!法務に権利確認急げ!!」
「音響!効果音つけられるか!?」
上司の怒涛の指示とともに運営フロアが再び活気づく。
だが今の活気は――
さっきまでの“疲れた悲鳴”ではない。
完全に“楽しい悲鳴”だった。
こうして、真剣勝負の動画は運営本部を救い、
新たな企画を生み出し、
今日一日の士気を回復させたのだった。




