36 ここで使うの?一生のお願い
「……隠れてないで出てこい」
キースが突然そう言った。
誰に?と周りを見回すより早く、近くの茂みががさっと揺れた。
「ひぃっ……!!」
申し訳なさそうに姿を現したのは、さっきから気配だけしていたシーフのプレイヤーだった。
あ、あのとき一緒に観戦したシーフの人だ。
シーフはキースを見た瞬間、地面に両手をついて土下座した。
「お、お願いっす!!先ほどの真剣勝負の動画、ネットに上げさせてください!!一生のお願いですから!!!」
……土下座なんて初めて見たんだけど。
私はぽつりと呟く。
「土下座って現実じゃ見ないなぁ……」
キースは腕を組んだまま、木に寄りかかってため息をつく。
「……黙って撮影した件は置いておく。どこから撮り始めた?」
シーフはビクリと肩を震わせたあと、観念したように全部白状し始めた。
「す、すみません!村を出るあたりで“もしかしてあの兄弟では!?”と……そしたらPVPを始めるじゃないっすか!で、興奮して録画ボタン押して……で、その……もう少しアップで見たくて距離詰めて……結果、マリさんに見つかりましたっす……」
私の名前まで知ってるのかぁ。
「りぃ……」
フローラが呆れたように鳴く。
ジークは苦笑していた。
「僕たちは村を出たときから気配に気づいていましたよ」
「「えっ……??」」
完全に驚愕している。
その僕たちに私は含まれてないけど?
キースは淡々と続ける。
「……で、許可を求める前に、まず動画を確認する」
「!! よ、喜んで!!」
シーフは慌ててメニューを開き、録画を再生した。
***
再生された映像は――
本当に“戦いが始まる直前”から撮られていた。
小川の水面に揺れる二人の影。
空気を裂く金属音。
ジークの一直線の踏み込み。
それを受け流すキースの無駄のない身体の運び。
水しぶき。
攻防のたびに飛ぶ光の粒。
画面越しでも迫力がすごい。
そして途中には――
《マリのよそ見》
《キースの不機嫌》
《その後の一撃でジークが膝をつく瞬間》
……全部しっかり映っている。
うん、これは人気出るわけだよ。
シーフは息を呑んで画面を見つめ、
私は小さく「あ……私、完全によそ見してる」と顔を覆った。
一方。
キースはブツブツと何か言っている。
「……ここ、無駄な踏み込みをしたな」
「ジーク、そこで迷ったのが悪い」
「剣の軌道は……いや、もっと速くてもいい」
完全に研究モードだ。
ジークも真剣な表情で、自分の動きをじっと確認している。
「兄さん、僕のここ……甘いですね……」
「当然だ。直すところはいくらでもある」
映像が止まり、シーフは恐る恐る口を開いた。
「で……ででで、では……投稿の許可を……っ」
キースは動画を一度巻き戻しながら言った。
「そのデータを俺たちに共有するなら許可する」
ジークも穏やかに頷く。
「兄さんと研究する良い材料になりますね」
「……!!!!」
シーフはその場で飛び上がった。
「ありがとうっすありがとうございますっす!!一生推します!!」
90度以上の角度で頭を下げたあと、
嬉しすぎてどこかへ全力で走っていった。
砂埃だけが残る。
ぽかんとしていた私に、キースがちらりと目を向ける。
「……大騒ぎだな」
「いや、あなた達が原因なんだけど?」
ジークは困ったように笑い、フローラは「りぃ♪」とだけ鳴いた。




