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星霊とまったり旅するアストレリア  作者: はちみつレモン


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31 真剣勝負1


ネリス村の外れ。

川のせせらぎが穏やかに流れる、小さな浅瀬。


私はフローラと並んで草の上に座り、少しだけ胸が高鳴っていた。


「本当にやるんだね……模擬戦じゃなくて、真剣勝負」


「りぃ……」


フローラもいつになく静かだ。

それだけ、二人の空気に“ただならぬもの”があるということなのかもしれない。


キースとジークは向かい合って立ち、

その間には風も音も入り込めないような緊張が流れていた。


ジークが深く息を吸い、ゆっくり吐く。


「兄さんと……こうして真正面から剣を交えるのは、久しぶりですね」


キースは細い目をわずかに細め、静かに答える。


「稽古はしていなかったのか?」

「……していました。ただ……兄さんを前にすると、どうしても足りない気がして」


ああ、分かる気がする。

キースの前に立つと、全部見透かされるような感じがするもの。


ジークは剣を握り直し、地に軽く構えた。


「今日は……勝ちたいです。兄さんに」


その声は震えているわけではない。

ただ、決意がぎゅっと詰まっていた。


キースは静かに歩み出て、弟の前で止まる。


「ならば、全力で来い」


ジークの喉がわずかに動く。


「……はい!」


二人の距離がわずかに縮み――

ジークが最初に踏み込んだ。


「はぁっ!!」


速い。

一瞬で距離を詰め、鋭い剣筋がキースを捉えようとする。


けれど、キースの剣は……ほんの指先の角度でそれを受け流した。


キィンッ!


「っ……!」


ジークが体勢を整える前に、キースの反撃が入る。


スッ――と風のような動き。

本当に、魔法職とは思えない。


「ちょ、ちょっと……メイジって剣こんなに使えるの?」


思わず口から出てしまった。


フローラも驚いたように羽を震わせる。


「り……!」


キースは私の声など聞こえていないかのように、ただジークだけを見ていた。


ジークの剣を滑らかにいなし、相手の重心の動きまで読んでいる。


「……相変わらず、全部読まれてる……っ!」


ジークは地面を蹴り、横へ飛んだ。


その動きに合わせてキースも向きを変える。


「焦るな、ジーク。呼吸が乱れている」

「兄さんが……速いんですよ……!」


剣と剣がぶつかり、火花が散る。


打ち合っているというよりは――

キースが “受け止めている” だけに見える。


(勝てるの……かな、これ……)


ジークは必死だった。

何度も姿勢を変え、切り返し、踏み込み、跳躍。

それでもキースは崩されない。


むしろ――


「動きが重い。もっと軽く踏め」

「分かってる……つもりです……っ!」


キースが髪を揺らしながら、一歩踏み込んだ。


ジークの目が、一瞬すっと細くなる。


「……っ!!」


その瞬間、彼は剣を交差させて受け止めた。


ギィッ!!


しかし――


キースの足が、滑り込むようにジークの横腹へ当たった。


ドンッ!!


「っぐ――!」


ジークの身体が弾き飛ばされ、小川へ落ちる。


ばしゃっ!!


「ジークっ!?」


私は立ち上がりそうになったが、キースが手で制した。


「動くな。あいつはまだ折れていない」


水の音の中、ジークがゆっくりと立ち上がった。


浅瀬の水が滴り落ち、息が荒い。


でも――その目だけは全く死んでいない。


「……兄さん……っ、まだ……!」


キースは岸から弟を見つめ、静かに言った。


「怯んでいないのは評価する」


ジークは一瞬目を見開き――

その後、ふっと笑った。


「…ありがとうございます……」


その笑みは、どこか幼さの残る柔らかなものだった。


キースは刀身についた水滴を払うと、

ためらいなく一歩、水へ踏み込んだ。


ばしゃっ。


そのままもう一歩、また一歩。

水位など気にする素振りもない。


「兄さん……?」

「距離を詰める。逃げるなよ、ジーク」


その声が低く、すこしだけ熱を帯びている。


……これ、さっきより本気だ……。


フローラも緊張して羽を縮める。


「り……」


水しぶきがゆっくり広がる中、

キースの影が近づいてくる。


ジークは剣を構え、浅瀬の水を踏みしめた。


「……はい。逃げません」


二人の距離がじりじりと縮む。

そのわずかな動きだけで、場の空気が凍りつくようだった。


私は息を飲む。


(……ここから本気なんだ)


フローラも肩にしがみつくように掴まってきて、

小さく「り……」と震えた。


キースは水面を見下ろし、そのまま静かに視線を上げる。


ほんのわずかに、かすかな熱を帯びた眼差し。


「続けるぞ、ジーク」


その短い言葉だけで、

ジークの胸にまた火が灯ったのが分かった。


「……はい!」


水面に映る二つの影が揺れ──

そして。


二人は、再びぶつかり合った。

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