25 釣りって意外と楽しい
ネリス村の小川は、草原とはまた違う静けさがあった。
水の音がさらさら流れて、太陽の光が水面で揺れる。
フローラは水の上をふわふわ飛びながら
『り〜♪』と気持ちよさそうに羽を揺らした。
キースは川の流れを観察しながら静かに言う。
「水量は安定している。釣りには向いているな」
ジークも穏やかに頷く。
「小魚が多いようです。初心者には最適ですよ」
そのとき。
「あっ、お姉ちゃんたち!」
声をかけてきたのは、昨日も見かけた村の少年NPCだった。
手には釣竿を抱えて、ぱぁっと笑っている。
「お姉ちゃん、釣りやってみる? これ、あげる!」
少年が差し出したのは、小さな本。
《スキルブック:釣り》
「えっ、くれるの?」
「うん!一緒に釣りしよう!」
「ありがとう。じゃあ、せっかくだし読ませてもらうね」
スキルブックを開くと光がふわっと散り、
新しい文字が浮かび上がった。
《スキル:【釣り】を習得しました》
「りぃ!!」
フローラが嬉しそうに飛び跳ねる。
貴方は釣りできないでしょ……?
少年は釣竿を渡しながら言った。
「じゃあ、ぼくがポイント教えてあげる!」
まるでガイドのように案内してくれる少年の後を歩く。
***
「この石の近くが、一番つれるよ!」
少年の言葉どおり、川はゆるく曲がっていて、
影が落ちているあたりに小魚が集まっていた。
私は釣竿を構え、見よう見まねで糸を垂らす。
ぽちゃん。
思ったより簡単だ。
「ねぇ、これ……ただ待ってればいいの?」
「そうですよ。焦らず、ゆっくり」
ジークは隣で静かに微笑んでいる。
「戦闘みたいに動く必要はない」
キースは川の流れを目で追いながら言った。
「魚影が寄ってきている。少ししたら動きがあるぞ」
……なんで魚の動きまで読めるの?
万能なの?この人。
私はえいっと竿を持ち上げると――
「……あ、つれた!」
《小魚を釣りました》
フローラが川の上でぴょんっと跳ねた。
「りぃ!!」
少年は満面の笑みで拍手してくれた。
「すごいよ!お姉ちゃん、初めてで釣れた!」
「ありがとう」
人生初めて釣りしたけど意外と楽しい。
***
それから何度か釣っていると、
フローラが私の袖をちょんちょんと引っ張ってきた。
「りぃ?」
「ん?どうしたの?」
フローラは水面を指差すように羽を伸ばす。
その瞬間、キースが小さく頷いた。
「……大きいのが来るぞ。マリ、構えろ」
「えっ、魚なのに構えるの?」
ジークが小さく笑う。
「まあ、見ていましょう」
言われるままに竿を握り直す。
すると――
大きな影が水面下を横切った。
竿がぐんっと引っ張られる。
「うわっ!? ちょ、ちょっと強い!!」
「焦るな、引け。リズムを崩されるな」
キースの指示どおり竿を引くと、魚が水面に跳ねた。
ばしゃっ!
《大物魚を釣りました! 品質:良》
「すごいよお姉ちゃん!!」
少年が全力で喜び、
フローラは私のほっぺに抱きついてくる。
「りぃぃ〜♪」
「よしよし……ありがと」
ジークも穏やかに微笑んでいる。
「マリさん、釣りの才能があるのでは?」
「ないない。今回は運が良かっただけ」
キースは魚を観察しつつ言う。
「晩の料理に使えるな」
「そうね」
***
ひと段落して、少年がぽんっと手を叩いた。
「これで釣りはおしまい!お姉ちゃん、とっても上手だったよ!」
《ミッション完了:ネリス川の釣り入門》
・経験値(小)
・料理素材:小魚×2/大物魚×1
・好感度:少年NPC(小)
「ありがとう、楽しかったよ」
「また釣りに来てね!」
少年が元気に手を振ると、フローラも羽を振って応えた。
「りぃ♪」
ジークが優しい声で言う。
「そろそろ村へ戻りますか」
私は荷物をまとめて立ち上がる。
小川の風が気持ちよくて、
今日の出来事がぜんぶ柔らかく胸に残っていた。
「……釣りって、いいね」
「りぃ!」
フローラが私の頭の横で満足そうに揺れる。
こうして、私たちの初めての釣り体験は
ゆるくて、あったかくて、ちょっと誇らしい時間になった。




