24 ネリス村到着
エノラ草原を抜けてしばらく歩くと、空気がふっと変わった。
草を揺らす風に、どこか冷たい水の匂いが混ざる。
「……あ、水の音する」
私が立ち止まると、フローラが嬉しそうに前へ飛び出した。
「りぃ!!」
そのまま羽をぱたぱたさせて、まるで「早く来て!」と言わんばかりに振り返ってくる。
キースが視線を上げた。
「……見えてきたぞ。あれがネリス村だ」
村の周囲には、きらきら光る小川が何本も流れていて、水車がゆっくり回っていた。草原とはまた違う、やわらかい世界が広がっている。
「わぁ……絶対好きなやつだ、これ」
自然と笑ってしまう。
ジークも穏やかに頷いた。
「静かで良いところですね。休息には最適だと思います」
フローラはというと、小川の反射光に惹かれて、もう我慢できないというように水面ぎりぎりを飛び回っていた。
「りぃっ!りぃっ!」
「落ちないでよー」
フローラは聞いているのかいないのか、光の粒を追いかけてぴょんぴょん跳ねるように空を舞う。
……楽しそうでなによりだけど。
***
村に入ると、まず最初に声をかけてきたのはおばあさんNPCだった。
「あらまぁ……なんて可愛い星霊さんなんだい」
「りっ……!」
褒められた瞬間、フローラは慌てて私の背中側に隠れた。
でも羽は丸見え。完全に隠れきれてない。
「恥ずかしがり屋さんかい?ふふ、ようこそネリス村へ」
おばあさんは優しい声でそう言うと、また水車の方へ歩いていった。
なんだろう……この村、落ち着く。
キースは周囲を見渡しながら静かに言った。
「水が豊富だ。薬草の質も期待できる」
「ここで採取すれば、また良いポーション作れそうですね」
ジークが補足してくれる。
冒険の途中とは思えないほど平和で、のんびりした空気が流れていた。
***
村の奥へ進むと、もっと大きな川に出た。
ゆっくり流れる水の音。
陽の光が水面に反射して、川全体が金色に揺れている。
私はそのまま草の上に座り込んだ。
「ふぅ……」
落ち着く。
フローラが私の横へ降りてきて、両手を広げるように羽をぱたぱた。
「りぃ〜……」
うっとりしてる。
そりゃあ、これだけ綺麗なら惹かれるよね。
ジークが私の隣に来て、携帯用の水筒を渡してくれた。
「喉、乾いていませんか?」
「ありがとう」
キースは少し離れた場所で川辺と森の境界を見ていたが、危険はないと思ったのか、ふっと表情を緩めた。
「……いい景色だ」
キースが褒めるなんて珍しいわね。
***
ふと、川辺がキラッと光った。
その瞬間、フローラがくるっと振り返る。
「りぃ!!」
そして私の手を引っ張りにくる。
「え、ちょ、なに?」
行った先を見ると――
浅瀬に、青く光る草が揺れていた。
「これ……薬草?」
キースがすぐ答えた。
「水露草だ。ここでしか採れない素材だな」
ジークも穏やかに説明する。
「回復ポーションの質が少し上がるんですよ。マリさんに向いている素材です」
「そっか……フローラが見つけてくれたんだね」
「りっ!」
胸を張ってドヤ顔してる。
私はそっと水露草を摘み取ってウィンドウを見る。
《水露草(品質:良い)を採取しました》
「おお……!」
なんだか、やる気がじわっと戻ってきた気がする。
***
夕方になり、川の色が少しずつ赤く染まり始めた。
フローラは夕陽の光を掬おうと手を伸ばして、ふわふわと揺れている。
「りぃ〜〜……」
キースがゆっくりと振り返る。
「そろそろ宿へ向かうぞ」
「今日の分は十分楽しみましたね」
ジークの声も優しい。
私は川の音を聞きながら、少しだけ名残惜しく立ち上がる。
「……なんかね。こういうの、すごく好きだなぁ」
キースは短く答えた。
「今日の景色は、今日しか見られない」
ジークも続ける。
「旅は、こういう瞬間を集めるものですから」
フローラは大きく羽を揺らし、
「りぃ!!」
と嬉しそうに叫んだ。
そうだね。
今日は、すごく良い日だった。




