23 ……え?終わったんだけど?
エノラ草原の奥――風が急にひんやりした。
草の揺れ方も、光の色も、さっきまでと違う。
「……ここがフィールドボスエリアか」
ジークが静かに周囲を見渡す。
「マリ、フローラ。ここから先は気を抜くな」
「わ、分かってる」
フローラは緊張しているのか、私の肩の横で羽を小さく震わせていた。
「り……」
でも、怖いというより“警戒”って感じだ。
キースは前に立ち、細い目で草原を観察していた。
「……来るぞ。あれだ」
彼の視線の先――草の海がざわりと逆流するように盛り上がり、小さな地震のような振動が足元へ伝わる。
次の瞬間。
ドンッ!!
巨大な鹿のような影が草を突き破り、跳ね上がった。
全身が草色。
角は枝葉のように広がり、目だけが妖しく光っている。
《草影のケルプホーン》
「でか……!」
「りぃ!!」
フローラは怯えるどころか、なぜか気合い十分に腕を振っている。
いや、勝てる気でいるのすごいな……。
そしてケルプホーンが地面を蹴った。
ダーッ!!
音速みたいな速度でこちらへ突っ込んでくる。
「くるぞ!」
ジークが一歩前に出て、キースも剣を構え――いや、え?剣?
「ちょっと待って、なんでメイジが剣持ってんの?」
キースが涼しい顔で言う。
「システムに“現実の戦闘経験を反映する”とあった。問題ない」
いや、問題しかないわよ。
メイジって杖でしょ???
と思う間もなく――
ヒュッ。
ジークの体が一瞬揺れたと思った次の瞬間、
ケルプホーンの角が彼の横を空振りしていた。
「え、避けたの……?」
キースが淡々と続ける。
「左後脚に重心が移った。次は上へ跳ぶぞ」
「はいっ!」
私とフローラはぽかーーんと、呆然。
置いて行かれている。
ケルプホーンは高く跳び、角を振り下ろす。
その瞬間、キースが剣を半回転させ、
刃で角の軸を軽く叩く。
カンッ!
「っ!?」
ただの一撃なのに、ケルプホーンの体勢が崩れた。
ジークがすかさず踏み込み、
首元へ水平に剣を走らせる。
スッ――。
次の瞬間、ケルプホーンの体が光に還っていった。
……え?
「「……」」
え、ちょっと待って?
今の何?
早すぎて理解が追いつかないんだけど??
「……終わったぞ」
キースが剣についた光の粒を払って言う。
ジークは控えめに笑った。
「マリさんとフローラがいたので、思ったより楽でした」
何が?
私とフローラは見てただけだけど???
私は思わず地面に座り込んだ。
「……えぇ……?なんか……私いらなかった……?」
キースが淡々とフォローになってないフォローをしてくる。
「当然だ。初戦闘がボス戦では無理がある」
「そうですね。次は雑魚から始めましょう」
なんでこの人たち、慰めのセンスが壊滅的なの……?
そんな混乱してる私の前に、ウィンドウがふわっと現れた。
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《討伐報酬を獲得しました》
★草影のケルプホーンの角 ×1
★草影の柔毛 ×3
★初級経験珠(小) ×2
★所持金 +150G
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続けて光が身体を包む。
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《経験値を獲得しました》
★マリ Lv 1 → Lv 2
★フローラ 信頼度+小
★星霊術 熟練度+1
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「……レベル、上がった……嬉しくない」
「りぃ……」
ほぼ何もしてないのにレベル上がるの、なんか申し訳ない……
「パーティー経験値だ。気にするな」
「初ボス討伐でレベルアップは普通ですよ」
キースとジークが普通の顔で言ってくる。
はぁぁぁぁーーーー。
もういいや、先に進も。
こうして、私の初めてのボス戦は――
圧倒的兄弟無双で終わった。
次こそは……何かしたい……。




