21 行ってきます
インベントリを開いて、持ち物を一つずつ確認した。
料理、ポーション5本、調合道具、余った食材と調味料。
……まあ、これだけあれば何とかなるはず。
「よし。準備できた」
小さく呟くと、フローラがぱっと目の前に降りてきて、嬉しそうに羽を揺らした。
「りぃ!!」
これは完全に“早く行こう”の顔だ。
「急かさないで、自分のペースで冒険させて」
「りっ!」
「ほんとにわかってる?」
数日過ごしたエノラの街を、いよいよ出て冒険に向かうんだ――そう思うと、なんだか体が軽くなる。
「では、門のほうへ向かいましょうか」
ジークが穏やかに促し、キースは無言で歩き始める。
私はフローラと一緒にその後を追った。
***
朝のエノラは、潮風が柔らかくて好きだ。
露店の人たちの声、港のざわめき、遠くから聞こえる鐘の音――全部が“行ってらっしゃい”って言ってるみたい。
「なんか……出発前って特別な空気あるよね」
「緊張か?」
「いや……楽しみ?」
フローラがその言葉に反応して、私の髪の横でくるっと一回転した。
「りぃ!」
「近い近い」
そして――ついに門へ到着した。
見慣れた大きな木製の扉。
立っている門番NPCの二人も、数日でなんとなく顔を覚えてしまった。
門番①は、私たちを見るとすぐに表情を整えた。
特にジークを見た瞬間、背筋が完全に伸びる。
「本日もご武運を……ジーク様!」
……様ついてるよ。
ジークは困ってるのか慣れているのか分からない微笑みで、落ち着いて敬礼を返した。
「ありがとうございます。あなたも良い一日を」
その一言だけで、門番NPCはほわぁ……っと顔を緩ませた。
やっぱりジークは罪深い。
次に門番②の視線がキースへ向けられる。
途端に緊張感が一段階上がった。
「……殿下、旅路のご安全を。門の者一同、陰ながら――」
「殿下ではない」
キースが即答したけど、門番はぴたりと止まった姿勢のまま動かない。
絶対信じてない顔だ。
……まあ、分からなくもないけど。
そして門番①が、今度は私に向き直った。
「マリ殿。それから星霊様。どうかご無事で。またエノラにお戻りください」
「……うん。また帰ってくるよ」
フローラも嬉しそうに「りぃ♪」と返事した。
小さなお別れの挨拶なのに、不思議と胸の奥があったかくなる。
***
門をくぐる直前、私は思わず街を振り返った。
港の風景も、石畳の道も、人の声も――もう“見慣れていた”はずの景色が、今日は少し特別に見える。
「……なんか、ちょっとだけ寂しいね」
ぽつりと言うと、キースが前を向いたまま答えた。
「帰る場所ができたということだ」
ジークも柔らかい声で続ける。
「また戻ってきましょう。いつでも」
フローラは私の手を軽く引っ張る。
「りぃっ!」
行こうって顔してる。
「……そうだね。行こうか」
扉を抜けると、エノラ草原の風がふわりと頬を撫でた。
背後で門が静かに閉まる音がして、胸の中でなにかが「旅モード」に切り替わる。
「……行ってきます、エノラ」
小さく呟くと、フローラが嬉しそうに羽を震わせた。
「りぃーー!!」
私たちの、最初の冒険が始まった。




