18 好物確定かな?
野菜を切り終えて、私は深呼吸した。
「よし……じゃあ火をつけていくよ」
コンロに手をかざすだけで“調理用魔力炉”が柔らかく点火する。
ゲームなのに、こういうところだけ妙に現実的だ。
フローラは私の横をふわふわ飛びながら、もう食べる気満々。
「りぃ……?」
まだ?まだ?という感じで、鍋を覗き込む。
正直危ないからやめてほしい。
鍋に入れた鶏肉がじゅわっと音をたてる。
「おぉ……いい音」
香草をぱらりと入れると、一気に香りが広がった。
フローラはこの香りだけで身体をくねらせて喜んでいる。
「りぃぃ〜〜〜……」
後ろでジークが微笑む。
「フローラは食べ物に正直ですね」
「そりゃあね。分かりやすくて助かるけど……テンション高すぎるんだよなぁ」
キースは調理台に寄りかかって腕を組み、静かに鍋の状態を見ている。
「火加減が悪いとすぐ煮崩れるぞ」
「分かってるわよ。何年料理してると思ってんの」
「約11年」
「なんで分かるの?」
「記憶と計算」
「もはや怖い」
***
スープが落ち着いたところで、次はクリーム煮。
玉ねぎを炒めて、きのこを入れて、弱火でじっくり煮込む。
「りっ……り、りっ!!」
「はいはい、落ち着く落ち着く」
フローラは待ちきれないのか、鍋の上をぐるぐる回っている。
落ちるなよ?絶対落ちるなよ?
「スープの香りも良かったですが、こちらもいい香りですね」
「きのこで旨味が出るからね。あとでミルク入れるの」
ジークは興味津々で鍋を覗き込み、キースは一歩引いている。
「……甘い匂いもするな」
「あ、それはハーブパンの発酵」
私はさっきからこね続けた生地を見せる。
「パンまで作るのか」
「うん。焼きたては正義でしょ?」
「……否定はしない」
キースのわずかな肯定が、なぜか勝ちを取ったような気分にさせる。
フローラはパン生地を興味津々で触ろうとして──
「触らない。落ちるから」
「りぃ……」
***
スープとクリーム煮が煮込みに入ったので、私は別の袋を取り出した。
蜂蜜。
そして、ナッツ。
「それは……?」
「おやつ。いや、フローラ用かな」
フローラの羽がびくっと跳ねる。
「り!?りぃ!?」
ナッツを軽く煎って、溶かした蜂蜜と少しのバターで絡める。
甘い匂いが部屋に広がると、フローラは空中でくるくる回って大暴れした。
「りぃぃぃぃぃーーーー!!!!!」
「シッ、静かに。落ちるから」
「りぃっ……」
ジークもくすりと笑う。
「分かりやすいですね」
「ほんとね……」
キースは少しだけ目を細めて見ていた。
「蜂蜜が好きなのか」
「多分ね。でも……蜂蜜といえばさ」
材料を見た瞬間、なぜかあの日のことが頭に浮かんだ。
「……クッキー、作ろうかな」
二人の視線がこちらに向く。
「昔のか?」
「うん。なんか……思い出しただけ」
私は粉をふるい、蜂蜜を加えて生地をまとめていく。
昔はよく失敗したけど、今はちゃんと作れる。
ゲームだけど、手の動きは昔のまま。
オーブンに入れて少しすると、あの懐かしい甘い香りが立ち上がった。
「りぃぃ……」
フローラは机に寝転がって、香りに溺れている。
キースがぽつりと言った。
「どういう風の吹き回しだ?」
「……懐かしい話聞いてたから、なんとなく」
私がクッキーを皿に出すと、二人も自然と近くに来た。
ジークがそっとひとつ取って口に運ぶ。
「……優しい味ですね。懐かしい」
キースは無言でひとつ取り、静かに噛んだ。
ほんの少しだけ目を伏せて──
「……昔より美味しい」
「当たり前でしょ」
自分で言いながら、胸の奥が少しだけくすぐったい。
フローラはというと──
クッキーに顔をうずめて溶けていた。
「りぃぃぃ……」
これは、好物確定したかな?




