17 過去の話
「よし……料理、始めよっか」
言った瞬間、フローラが私の目の前で弾けるように跳ねた。
「りぃ!!」
めちゃくちゃ嬉しそう。
ほんとこの子、食べ物に対して全力すぎる。
「はいはい。まずは基本の料理からね」
インベントリから材料や調理器具を取り出すと、
フローラのテンションが明らかに跳ね上がった。
「りぃ!?りぃ!!」
「落ち着いて。ご飯は逃げないから」
「りっ」
私は包丁を握り、野菜をトントントン……と切り始めた。
現実でも弁当作るから料理は慣れてるけど、
ゲーム内でも包丁を握るとは思わなかったなぁ。
そのとき、横から落ち着いた声がした。
「料理している姿を見るのは久しぶりだな」
キースがぽつりと呟く。
ジークも、懐かしそうに笑った。
「昔、よくお菓子をいただきましたね」
……やめて、集中できない話題を自然に出すの。
「あぁ。よく焼けたクッキーの中に焦げたのが混じっていた」
「ふふ。僕のは生焼けのときもありました」
「失敗作も普通に渡してくるところが、マリらしかった」
「ですね」
うるさい。こっちは野菜を切ってるんですけど?
でも……確かにそんなこともあったなぁ。
捨てるの勿体ないから全部入れたんだっけ。
ジークがふと思い出したようにキースへ向いた。
「兄さん、いつ頃からいただかなくなったか覚えてますか?」
キースは短く考え込んだあと、小さく答えた。
「……中学二年の冬」
なんでそんな細かいとこ覚えてるのよ。
「理由は……ご存知なんですか?」
ジークの問いに、少しだけ沈黙が落ちた。
そしてキースが静かに言った。
「……バレンタインの日。マリが渡そうとしたクッキーを、別の女子生徒が粉々にした」
「っ……!?」
懐かしい話だわ。
当時はショックというより「あーあ、やられた」くらいで済ませたけど。
「何を言われたかまでは知らない。ただ……それ以来持ってこなくなった」
「粉々になったクッキーは……どうしたんですか?」
「食べた」
え?食べたの?
いや、それは初耳すぎるんだけど。
ジークは苦い思いを噛みしめるように眉を寄せた。
「……そんな、酷すぎます」
キースは軽く息を吐いた。
「嫉妬だったらしい。粉々にした女子生徒は……俺に好意を抱いていたそうだ」
「兄さんは……昔から人気でしたからね」
ジークが納得するように頷くと、
キースは少し嫌そうに視線をそらした。
「その人気のせいで……友人が傷つくなら、そんなもの不要だ」
「兄さん……」
そのやり取りを聞いていたフローラが、
どこかしょんぼりした表情で私を見上げてくる。
「りぃ……」
私は包丁を置き、フローラを見た。
「はぁーーー……私は別に気にしてないから、そんな顔しないで。やりにくい」
怒りも悲しみもない。
ただ、幼馴染としての距離って……どこまでが“普通”なんだろうな、とか考えてしまっただけ。
フローラは安心したのか、
私の胸もとにぎゅうっと抱きついてきた。
「りぃ……」
――さて、続き作ろう。
料理はこれからが本番だ。




