15 先生と一緒に初めての調合
食材をあれこれ買いすぎて、お財布がえぐられた後。
「……インベントリ便利だなぁ。現実にも欲しいわ」
さっきまで両手いっぱいだった食材も、今は全部アイテム欄に吸い込まれている。
普通に歩きやすいし、軽いし、最高。
ただ、所持金が軽くなったのはいただけない。
「りぃ?」
フローラがくるっと私の正面に降りてきて、心配そうに顔を覗いてくる。
「大丈夫よ……お金が軽くなっただけだから……」
「りっ」
慰めにもならない返事をして、私の頬にちょこんと触れてくれた。ちょっとだけ元気出た。
「さて、調合はどこでやるんだ?」
と、キースが落ち着いた声で尋ねてきた。
「うーーん。あ、あそこにしよ」
私が指さしたのは路地裏にある小さな屋根付きスペース。
私たちはそこに移動し、インベントリから必要な道具を取り出した。
《初心者調合セット》
《乳鉢》
《小瓶×5》
《薬草(品質:普通)》
並べながらため息をつく。
「お金……どこいったんだろう……」
「使った」
キースが即答する。
「いや、それはそうなんだけどさぁ……」
「気にするな。生産系はどれも最初に投資が必要だ。無駄にはならない」
「確かにそうだけど……」
ジークはその隣で微笑んで言う。
「マリさんが楽しいなら、それで十分でしょう?」
……ほんとこの兄弟、言ってることと見た目が合いすぎる。
「じゃ、やりますか。初調合」
「りぃ!!」
フローラが全力で賛同して飛び上がった。
***
まずは乳鉢で薬草をすり潰す。
指示通りにやってるはずなんだけど……。
「あれ……固い……?」
「力を入れすぎると繊維がつぶれすぎる。もう少し円を描くように回せ」
キースが横から見てそう言った。
「え、なんで分かるの?経験あんの?」
「なんでだろうな?」
「質問を質問で返すな」
とりあえず言われた通りに力加減を調整すると、さっきよりスムーズに潰れていく。
「……ほんとだ。やりやすい……」
「いい形だ」
じわっと褒められた気がして、ちょっと嬉しい。
次に小鍋に水を入れて、温度を調整する。
「うーん……これくらい?」
「少し強い。弱めたほうが失敗しにくい」
「ありがとうございますキース先生」
「先生じゃない」
「先生みたいなもんでしょ」
「集中」
「はーい」
私が頑張ってる中フローラはというと、薬草の匂いが好きなのか、乳鉢の周りをふわふわ漂っている。
「りぃ〜……りぃ」
歌……?呑気だなぁ。
「フローラ、この後で魔力入れてくれる?」
「りっ!」
元気よすぎる返事をして、ぐるぐる回り始めた。
「急旋回しないで……酔う……」
***
薬草を煮出してある程度濾した後、調合の仕上げに入る。
フローラが私の手元へ降りてきて、小さな手をそっと鍋に向けた。
淡いピンク色の魔力が、ゆらりと溶け込む。
ふわっと花の香りが広がった。
「りぃっ!」
誇らしげに胸を張るフローラ。
キースも感心したように言う。
「魔力の量が安定してるな。扱いが丁寧だ」
「りぃ!」
褒められて飛んだ。
天井にぶつかりそうで怖い。
ジークが鍋の色を確認して、穏やかに言う。
「仕上がりましたね。後は瓶に詰めるだけです」
私は慎重に小瓶へ注ぐ。
とろり、と薄い緑色の液体が流れ込んだ。
《初級回復ポーション(品質:普通) を作成しました》
「……できた……!」
うわ、めっちゃ嬉しい。
ゲームなのに、なんか達成感すごい。
「りぃ!!」
フローラも喜んで私の顔に抱きついてきて、頬にぷにっと腕を押し当ててくる。
キースは軽くうなずいた。
「初めてにしては上出来だ」
ジークも柔らかく微笑む。
「これから品質も上がっていきますよ」
「うん」
調合セットを片付けながら、私はふと思う。
あー、こういう“ゆっくり積み重ねる感じ”好きなんだよなぁ。
「りぃ」
フローラが私の周りをふわっと一周した。
草原も好きだし、街歩きも好きだし、買い物も調合も好き。
このゲーム、たぶん私に合ってる。
「よし、次は何作ろうかな!」
「財布と相談だな」
「ですよねー……」




