11 これで私も冒険者
喫茶店を出ると、通りの空気は昼下がりの穏やかさを帯びていた。
フローラはカップの香りを十分に堪能したらしく、
今は私の周りをゆっくり円を描くようにふわふわ飛んでいる。
「さて……どうしよっか」
特に目的も決めずに歩き出したとき、ふと気づいた。
「ねぇ、そういえば……フィールドって行けるの?」
「り?」
フローラが小首を傾げながら、私の前に降りてくる。
「いや、そろそろ外に出て素材とか取りに行きたいなーと思って。採取スキル取ったし」
その言葉に、キースが当然という顔で言った。
「冒険者登録はしたのか?」
「……してない」
「なら無理だ」
即答された。
「冒険者じゃない者は、街の外に出られない仕組みになっている。ギルドで登録して初めて、フィールドへ行く権利が与えられる」
「うわ、思ったより現実的……」
ジークが穏やかに補足する。
「治安維持と新人保護のためだそうですよ。登録自体は簡単です。僕たちも最初に済ませました」
「そっか……じゃあ行っておくべきだね」
フィールドに出られないんじゃ、採取ができない。
フローラも外の花を見たら喜びそうだし、登録は必須か。
「りぃ!」
フローラは嬉しそうに私の指を引っ張り始めた。
「引っ張らなくても行くわよ」
キースはくすっと鼻で笑った。
「本当に懐かれているな」
「まぁね」
元気すぎるのがちょっと困るけど。
***
冒険者ギルドは、エノラでも一番大きな建物のひとつだった。
木造なのに重厚な雰囲気で、表の掲示板には依頼書がずらりと貼られている。
中へ入ると、受付カウンターの向こうでNPCが忙しそうに動き回り、
プレイヤーや冒険者風のNPCが行き交っていた。
「すご……なんか、RPGそのもの」
「ギルドは、冒険の基盤だからな。思った以上に作り込まれている」
フローラはといえば、ギルドの吹き抜け天井の光に反応して「りぃ〜」と楽しそうに上昇していく。
「こら、あんまり飛び回らないの。見失うでしょ」
「りっ」
素直に戻ってきた。
受付に向かうと、丁寧な口調の女性NPCが微笑んだ。
「はい、冒険者登録をご希望ですか?」
「お願いします」
「ではこちらにお名前と職業をご記入ください」
差し出されたウィンドウに、
【マリ/アストラリスト】と入力する。
「アストラリスト……?珍しい職業ですね。星霊をお連れいただいているのはその関係でしょうか?」
フローラが胸を張って「りっ!」と鳴いた。
受付NPCはやわらかく笑う。
「元気な星霊さんですね。登録処理を行いますので、少し手をおかざしください」
私は指定された台座に手を置く。
ふんわりとした光が包み込み──
《冒険者登録が完了しました!》
・フィールドへの出入りが可能になりました
「はい、マリさん。本日より正式に冒険者となります。どうぞよろしくお願いいたします」
「ありがとうございます」
フローラが勢いよく私の胸に飛び込んできた。
「りぃ!!」
「……はいはい、嬉しいね」
ジークが穏やかに言う。
「これで外に出られますね。無理のない範囲で行きましょう」
キースも軽くうなずいた。
「初日は探索より、様子見がいい。フィールドは広いからな」
私はフローラを抱えながら笑った。
「よし、今日は軽く外の空気だけ吸ってみよっか」
フローラはぱたぱた羽を揺らしながら、
「りぃっ!」と元気よく返事をした。
──こうして、私たちの“本当の冒険”の準備が整っていく。




