二人の異世界人
「……さて、聞かせてもらおうか」
俺は杯を置き、カイに視線を向けた。
暖炉の炎が、互いの影を長く伸ばしている。
他の者は席を外した。ここは、俺とカイの二人きりだ。
「転生者、だろ?」
カイは眉一つ動かさず、酒を一口。
「……ああ。お前も、だな」
「そうだ」
沈黙。だが、この沈黙は妙に心地いい。
――同じ匂いがする。
剣を握り、血を浴び、戦場で笑う連中とは違う。
冷静に、計算して動く。それが俺たちだ。
「前世は?」
「日本のエンジニアだ」
「技術屋か」
「そっちは?」
「ただのサラリーマンだよ。三流企業のな」
「……意外だな」
カイが小さく笑った。
「俺はこっちに来て、ずっと考えてる。
この世界、効率が悪すぎる。魔力はあるくせに、道具は原始的だ」
「だから、魔導銃か」
「そうだ。俺の特典は《術式構築の天才》ってやつだ」
「なるほどな」
――俺と真逆だ。俺は力で捻じ伏せるタイプ。
カイは仕組みを変えるタイプ。
「お前の目的は?」
「……東方を、この腐った王国に飲み込まれない国にすることだ」
カイの目が、鋭く光った。
「だから、王国が滅びたのはむしろ好都合だ」
「……なるほど」
俺はグラスを傾けながら笑う。
「だが、俺は違う。
王国はどうでもいい。だが、辺境を守るために奪還する」
「覇道、ってわけか」
「そうだ」
沈黙のあと、カイが笑った。
「面白い。なら、組もう。条件付きで」
⸻
「条件?」
「魔導銃の量産権は東方にあること。
あと、東方の文化を領内で優遇すること」
「……随分強気だな」
「東方を背負ってるんでな」
……なるほど。やっぱりコイツ、ただの護衛じゃない。
――東方の中枢にいる人間だ。いや、“転生者”だから当然か。
「わかった。条件は呑む。ただし――」
俺は椅子に深く座り、カイを見据えた。
「俺の覇道を邪魔するなら、その時は斬る」
「同感だ」
二人の視線がぶつかり、火花が散った。
――敵じゃない。けど、味方でもない。
今は、同じ方向を見ている。それだけだ。
⸻
「お話は終わった?」
不意に、柔らかな声が響いた。
振り向けば――エリシア姫が立っていた。
薄青のドレス、月光を受けて輝く金髪。
だが、その瞳には微かな棘。
「……何を話していたの?」
「同盟の話だ」
「そう」
姫はカイを一瞥し、俺に視線を戻した。
「アルノ、あなたの判断を信じるわ」
――言葉は穏やか。でも、表情が硬い。
……ああ、なるほど。
カイと仲良さそうに話してたの、ちょっと気にしてるな。
「坊ちゃま、姫様、ご機嫌ななめですな」
後ろからリュシアが耳打ちしてきた。
「黙れ」
「ふふっ」
メイド隊がニヤニヤしている。やめろ、その顔。
⸻
その夜、俺は久しぶりに剣を振りながら考えていた。
――同盟は結んだ。
だが、この先、裏切り貴族、魔獣軍、そして……カイ。
どれも油断ならない。
⸻
暗転。
燭台の下、豪奢な椅子に腰掛ける男がいた。
「辺境伯が動いた、だと?」
深紅のマントを纏う、冷たい笑みの貴族。
「ならば、潰すまでだ。あの領地も、奴の命も」
グラスを傾ける手が止まり、影が歪んだ。
「“彼”を呼べ。計画を早める」
――彼、とは?
その名が告げられるのは、まだ先の話。




