東方からの影
ガルデンの城門前は、いつになく賑わっていた。
色鮮やかな荷馬車、異国の衣装、香辛料の匂い。
「東方の商隊だ!」
領民たちが目を輝かせる中、俺は城門の上からその光景を見下ろしていた。
「見事なものですな」
隣でバルドが頷く。
「ただの交易ではなさそうだな」
馬車を囲む護衛の武装を見て、俺は目を細めた。
長刀を携え、軽装だが隙のない動き。
その先頭に立つ青年が、こちらを見上げた。
黒髪、鋭い目、落ち着いた立ち姿。
――あいつか。
⸻
「辺境伯様にお目通り願いたい」
商隊の長が丁重に頭を下げる。
その横で、護衛の青年が無言で俺を見ていた。
「いいだろう。通せ」
俺は執務室で彼らを迎えた。
「初めまして、東方商連の使者、ハクレンと申します」
穏やかな笑みを浮かべる長老風の男。
その後ろに控える青年が一歩前に出た。
「護衛隊長のカイだ」
短い自己紹介。しかし、その声には妙な力があった。
「随分と静かな護衛だな」
俺が軽口を叩くと、カイは薄く笑った。
「護衛は目立たない方がいいんでね」
……ただの護衛じゃないな。俺の“感覚”が告げている。
⸻
取引の席に並べられた品々は目を見張るものだった。
「これが……魔導銃?」
鉄製の筒に術式が刻まれ、魔力で弾を撃ち出す仕組み。
「射程は百メートル以上、威力はクロスボウの三倍」
ハクレンが誇らしげに語る。
「悪くないな」
俺は一本を手に取り、バランスを確かめた。
その瞬間――カイの視線が鋭くなった。
「お前、銃に慣れてるな」
「……さあな」
軽く笑って流す。だが、こいつ……気づいたか?
⸻
取引の途中、バルドが駆け込んできた。
「坊ちゃま、緊急事態です!」
「何だ?」
「魔獣が、商隊を狙ってきました!」
その瞬間、俺とカイの視線が交錯した。
「――行くぞ」
二人は同時に立ち上がった。
⸻
城門前。
黒毛の魔獣たちが荷馬車に群がり、兵士たちが必死に応戦していた。
「くそっ、数が多い!」
「隊列を崩すな!」
その混乱の中、カイが鞘から抜いたのは――一本の刀。
シュンッ!
一閃。
魔獣の首が、風のような速さで飛んだ。
「刀……!」
俺の心臓が跳ねた。
カイは無駄のない動きで次々と魔獣を斬り伏せていく。
――完全に、ただ者じゃない。
「リュシア! メイド隊、展開!」
「了解!」
リュシアの号令で、メイドたちが舞うように動く。
クロスボウの一斉射撃、双剣の乱舞、そして――。
「アルノ様、後方は任せてください!」
ノエルが笑顔で魔獣の頭を吹き飛ばした。
……お前ら、本当にメイドか?
「仕留める!」
俺は剣を抜き、魔力を流し込む。
「《雷閃撃》!」
バリィィィィィン!
雷光を纏った斬撃が、魔獣の群れを一掃した。
煙と血の匂いの中、カイがこちらを見てニヤリと笑う。
「お前、やっぱり普通じゃねぇな」
「そっちもな」
⸻
戦闘が終わり、領民の歓声が響く中――。
俺とカイは晩餐の席で向かい合っていた。
「へぇ……こっちの料理、うまいな」
カイが箸を動かしながら、目を細める。
「そっちの東方鍋も悪くない」
湯気の立つ土鍋、香り立つ出汁。
「だろ? 出汁ってのは奥が深いんだ」
――その言葉、懐かしさを感じるな。
やがて、カイが口を開いた。
「一つ、聞いていいか」
「何だ」
「お前……転生者だろ?」
――空気が止まった。




