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3/13

王国からの逃亡者

討伐戦から三日後、俺たちは領都に戻った。

城門をくぐると、兵士たちの歓声が響く。

「お帰りなさいませ、閣下!」「おお、アルノ様が初陣を!」

……いや、そんなに騒がれると恥ずかしいんだが。

けど、悪い気はしない。


父の執務室に入ると、机の上には山のような報告書が積まれていた。

「……やはり、王都からの連絡は途絶えたままか」

父が重々しい声で呟く。

「三度鷹を送ったが戻らず、商人の往来もない。……妙だ」

「魔獣の侵攻で街道が塞がれたんじゃ?」

俺がそう言うと、父は首を振る。

「なら、王都から増援の要請があってもおかしくない。だが、それもない。沈黙が長すぎる」

沈黙。

嫌な予感が、胸の奥でじわりと広がる。



その夜。

俺は城壁の上で夜風に吹かれていた。

満天の星空。遠くの森からは獣の遠吠え。

――王国に何が起きている?

考え込んでいると――。


「報告!」

駆け込んできた兵士が、膝をつき叫んだ。

「城門前に、倒れていた者がいます! 女です!」

「……女?」

兵士の焦り方が尋常じゃない。俺は即座に動いた。



城門前。

松明に照らされた石畳の上で、少女が横たわっていた。

ボロボロのドレス、切れた靴、血の滲んだ腕。

それでも、彼女の美しさは隠しきれなかった。

絹糸のような金髪、透き通る白い肌、閉じた瞼の長い睫毛。

……おいおい、これは――。

「誰だ、この子は?」

「身分証らしきものが……これを」

兵士が差し出したのは、王家の紋章が刻まれたペンダントだった。

――まさか。


「……王国の姫君、だと?」

俺は息を呑んだ。



応急処置の後、彼女は客間で目を覚ました。

薄く開いた瞳は、瑠璃色の宝石のように澄んでいる。

「……ここは?」

「ガルデン辺境伯領。あなたは俺たちに保護された」

俺がそう答えると、彼女は安堵したように息を吐いた。

「……よかった……まだ……無事な土地が……」

声は震えていた。

「何があった? 王都は?」

俺が問いかけると、彼女は唇を噛み、言葉を絞り出した。

「……王都は……陥落しました」

空気が凍りついた。

「魔獣の群れが突如として押し寄せ……そして、内乱が……」

「内乱?」

「……王国の大貴族が、裏切ったのです。王は……もう……」

彼女の目に涙が滲む。


――終わったのか、王国。

いや、終わらせるものか。

胸の奥で、何かが燃え上がった。


「名前を聞いても?」

「……エリシア。エリシア・フォン・ルーベンス」

「エリシア姫、安心しろ。ここは安全だ。……いや、安全にしてみせる」

俺は拳を握りしめた。

――守るだけじゃ足りない。

奪われたなら、奪い返す。

この世界で生きるなら、徹底的にやってやる。



姫は疲労で再び眠りについた。

その横顔を見ながら、俺は決意を固める。

王国は沈黙した。

なら――俺が動く番だ。

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