初陣! 魔獣の群れを討て
夜明け前、城の鐘が鳴り響いた。
低い重厚な音が辺境の空気を震わせる。それを合図に、兵たちが慌ただしく動き出した。
――今日、俺は初めての戦場に立つ。
「アルノ様、装備は整いました」
リュシアが差し出したのは、子供用にカスタムされた軽鎧と片手剣。
艶のある銀髪を後ろで束ね、戦場仕様のメイド服にブーツ。腰には短剣二本。
「うん……ありがとう」
鎧を身につけながら、心臓が高鳴る。緊張? いや、ワクワクの方が勝っている。
「坊ちゃま、焦らず、しかし怯まず」
バルドが渋い声で言いながら、マントを俺の肩にかけた。
「敵の牙を恐れるな。恐れるなら、己の慢心だ」
「わかってるよ、バルド」
俺は剣を握り、深呼吸する。
――今日から、俺は本当に“戦う者”になるんだ。
⸻
城門が開かれ、軍勢が進み出す。
冷たい朝の風が頬を撫で、遠くで狼の遠吠えが響いた。
前線に向かう部隊は百名。父ジークフリートを筆頭に、精鋭ぞろいだ。
その最後尾に、メイド部隊が並ぶ。黒と白のメイド服に鎖帷子を仕込んだ彼女たちは、まるで戦場の花。
「アルノ様、緊張していらっしゃいます?」
馬に並んで歩くリュシアが、俺を横目で見て微笑む。
「……まぁ、ちょっとな」
「大丈夫ですよ。もしアルノ様に傷一つでもついたら――この世から魔獣を絶滅させますので」
怖いこと言うな! でも、心強い。
⸻
戦場はガルデン領の南端、鬱蒼とした黒樹の森。
視界は悪く、獣の気配がそこかしこに漂う。
「敵はCランク魔獣の群れ。だが、情報によればBランクの群れ長もいるらしい」
父が号令を飛ばす。
「全軍、散開! 包囲網を敷け!」
兵たちが一斉に動き、森を駆ける。その瞬間――。
グォオオオオオオッッ!
獣の咆哮が森を揺らした。
現れたのは、黒毛の巨大な狼。目は血のように赤く、牙は槍のように長い。
……Cランクでも十分デカいな。
「アルノ、恐れるな!」
父の声と同時に、彼が剣を振るった。
一閃。風を裂く鋼の軌跡。
次の瞬間、狼の首が宙を舞っていた。
……いや、速っ!
俺が目を丸くしている間に、父は次々と魔獣を薙ぎ払っていく。
これが、辺境最強の男――ジークフリート・ガルデンか。
だが、見とれている場合じゃない。俺もやる。
背後から飛びかかってきた狼に、俺は片手剣を構えた。
「――スラッシュ・エッジ!」
詠唱省略。魔力を剣に乗せ、一気に振り抜く。
ザシュッ!
狼の体が真っ二つになり、血飛沫が舞う。
……おお、想像以上に切れるな、これ!
「さすが、アルノ様!」
リュシアが駆け抜けながら、二本の短剣で二体の狼を一瞬で葬る。
後ろでは、他のメイドたちが銃のようなクロスボウを撃ち、的確に魔獣を仕留めていた。
戦うメイドって、なんでこんな絵になるんだろうな。
⸻
「ガァアアアアアッッ!」
突然、地響きがした。
現れたのは――森の奥から姿を現した、黒鉄色の毛並みを持つ巨大な狼。
体長五メートル、牙は大木のように太い。
「……Bランク魔獣、ブラックファングだ」
父が低く呟いた。
「アルノ、来い!」
「……ああ!」
俺は父と並び、ブラックファングと対峙した。
――勝てる。いや、勝つ!
俺は剣を構え、体に魔力を流す。
「《強化・疾駆》!」
瞬間、視界が伸びた。
俺は一気に間合いを詰め、剣を閃かせる。
ガギィィン!
牙と剣がぶつかり、火花が散った。
だが、負けない。この世界で生きるために――!
「アルノ、下がれ!」
父の一撃が、雷鳴のように走った。
大剣が振り下ろされ、ブラックファングの片足が吹き飛ぶ。
俺はすかさず跳び、残った首を――。
「うおおおおっ!」
ズバァッ!
首が飛んだ。
――終わった。
……俺、やったぞ!
⸻
戦いの後。
前線の焚き火を囲み、俺たちは魔獣の肉を鍋に放り込んだ。
「うまい……」
口に広がる、濃厚な旨味。
「アルノ様の調味料……これはクセになりますね」
リュシアが頬を染めながら箸を動かす。
父も満足げに笑った。
「これなら兵の士気も上がるな。さすが俺の息子だ!」
……いや、褒められるのは嬉しいけど、これ戦場メシだよな?
どう見ても高級レストランのクオリティなんだけど。
そのとき――一人の斥候が駆け込んできた。
「閣下! 王都からの伝令が、来ません!」
「……何?」
父の表情が曇る。
「三度、使いの鷹を送ったが、いずれも戻らず……王国が静かすぎます」
焚き火の炎が揺れ、冷たい風が頬を撫でた。
俺はスープを飲み干しながら、心の奥で呟く。
――嫌な予感がする。




