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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

我が命、掛けてでも、貴方を御守り致します!

作者: 沖田 楽十

伊吹いぶき…、伊吹ッ!!」

「は…はいっ!何で御座いましょう、若」

「そんな処で涎垂らしてジッとこっちを見るのを止めてくれ。食べ辛い…」

「す……すみませぬ…」

「……ったく。ほれ」

「!…むぐっ?!もぐもぐ……じゃなくて、ちょっ、若!?」

「皆には内緒だぞ?御腹空いてる奴が目の前に居るのに、自分だけ食べるのは、何だか気分悪くてな」


そう言って、人差し指を口に当て、悪戯っ子がする様な笑みを浮べた貴方に、私は顔が熱くなるのを感じ、思わず俯いた。

自覚はしてる。多分、私が彼に懐いてる感情は、持ってはならないもの。そう。私は、目の前で食事を取る佐田さだ勇正はやまさに惚れていた。


何れは天下を取るだろう佐田家に生まれ育った若は、身寄りもなく、道端をうろついてた私を拾ってくれた恩人だ。

若の父――時正ときまさ様は、私が此の御屋敷に住まわせるのを凄く反対してたが、若の必死の説得に折れた殿は、渋々私が此の屋敷で住まうのを承諾してくれたあの日の事を、今でも覚えてる。


若に惚れるのは、必然的だったのかもしれない。唯、身分が違い過ぎただけ。うんん。仮に、同じ身分だったなら、こんな風に惹かれて無かったのかもしれない。だって、私は、金や名誉や肩書きに惚れたのではないからだ。若の、内面に惹かれたのだから。


「なぁ…、伊吹」

「何で御座いますか、若?」

「その、堅苦しい言葉遣い、止めてくれないか」

「え…えぇ?!だっ、だって、私は家来!貴方様は主人!家来が主人に対し、其れ以外の言葉遣い等……」

「だからっ!………ハァ…二人だけの時は、何時も、お主が他の家来と接する様な言動をしてろと言ってるのだ!」


若の顔は、頬を赤くして、此方に目を合わせずそう言った。

ねぇ…、そんな顔しないで。勘違いしちゃいます。貴方も、私と同じ気持ちを懐いてるんじゃないかって。自分にとって、都合の好い考えしか浮かばなくなります。だからお願い。そんなに、他の人には見せない様な顔で、私を見ないで。


『伊吹ー!何処ぉ?伊吹ー!!』


「……あ!お蘭が呼んでる。若、其れでは私は此れで失礼致します!!」

「あっ、オイ!?」


若の制止の声が聞えた気がするが、取敢えず聞えないフリをして、私は其の場から逃げた。襖を何時も通り…いや、若しかしたら、緊張して乱暴に閉めてしまったかもしれない。でも、そんな事、今は如何でも好かった。

若の部屋から随分離れた処で、壁に背を預け、ズルズルと音を立てながらペタリと座込む。若干左寄りに、ほぼ真ん中にあると云われる心臓の場所に手を置き、ドクンドクンと早鐘の様に鳴り止まない心臓に、治まれ!治まれ!と願った。


「アンタ、何、油売ってんだぃ?呼んだら直ぐ返事しなって、何度言ったら分るんだぃ!!」

「お…お蘭……」


顔を上げると、「呆れた」とでも言いたげな顔で、此方を見下ろすお蘭と目が合った。お蘭は、何も言わず私の隣まで来ると、腰を下ろした。同じ様に壁を背に預け、わざとらしく溜息を吐いた。


「……ハァ…まーた、若の事かぃ?好い加減御止しぃよ。幾ら好いたって、報われないのは目に見えてる事じゃないのさ。泣きを見るのはアンタなんだよ?」

「でっ…、でもっ!!」

「其れだけの価値がある御人である事は、此処に居る者なら誰だって十分承知だよ」

「…………」


そんなの知ってる。若は、殿と違い市民だろうが何だろうが関係無く接する。苦しんでいる人が傍に居ればほっとけない性格で、其の性格が仇となって敵陣に攫われる事もよくあるけど、其れでも、無事帰ってくる。剣術は、護衛の武士と変らない――いや、其れ以上に強いのかもしれない。そんな処も、好きになった一つだ。


私がそんな事を考えていると、隣からクスクスという笑い声が聞えてきた。笑ってる本人を軽く睨むと、プッと吹出され、再び笑い出す。なんって失礼なお人だろう。

でもまっ、其れが、彼女の良い所でもあるのだけど。


「まぁ、でもさね、アンタが其れでも好いってんなら、私はもう止めに入らない。そんな野暮な事する暇あったら、自分の恋咲かせた方が好いに決まってるからねぇ」


お蘭はそう言うと腰を上げ、「今回は目ぇ瞑っとくけど、次は承知しないかんね」と告げて、立去っていった。多分、早く持前の仕事に付かなかった事についてだろう。彼女のそーゆうぶっきら棒な優しさは、正直、毎度の事ながら助かる。

其れに比べ、私は……イカン!イカン!!人と比べたって、如何にかなる問題じゃないでしょ、私!


取敢えず、お蘭が去っていた方へと向う事にした。あっちに行って、頼まれた仕事を遂行しよう。まずは、其れからやって若の事を考えたって、遅くもない話だろう。



『くせ者じゃ!城内に居る者は、殿と若を御守り徹せ!!』


其れを聞いたと同時に、私の足は踵を返し、若の部屋の方へと向って走った。






パンッという発砲音。

侍女の悲鳴。

人間なのかと疑いたくなる呻り声。


そして――



「貴様等!覚悟は出来てるんだろうな!?此の、佐田勇正が、成敗してくれるッ!!」


鞘を腰に挿し、刀を抜こうとする若の姿が視界に映る。こんな緊急時に思うのも如何かと思うが、其の姿が凛々しくて、更に惚れてしまった。でもそんな甘い感情、直ぐに吹っ飛んだ。

あーぁ…。何で、こんなに視野が広いんだろう。見なきゃ好かった。でも、見て、気付いて好かった。



―――パンッ



「伊吹ッ!!」


若の声がして、目をゆっくり開けると、悲しげな顔で私を見下ろしていた。


「わ…か……」

「馬鹿野郎!何って、真似しやがる!兎に角、今は喋んな」


あ…、そっか。私、撃たれたんだ。私が撃たれた事で城内に居た用心棒達は腰に挿した刀を手に、侵入者達に斬りかかっていくのが見えた。良かった。此れで、若は戦わなくてすむ、筈…。


「救護はまだなのか?!」

「其れが…、殿が負傷してしまい、其方が優先だと申され、後もう暫くは無理だと…」

「ふざけるなッ!!此の侭じゃ、伊吹が――」


「大丈夫だから…」

そう意味を込めて、私は、若の手に同じモノを重ねた。若は私の言いたい事が分ったのか、今にも泣きそうな顔で、私を見た。そして、私の脇でダランと力なく垂らされた手を取ると、手の甲にそっと、唇を寄せた。


「わ…、か……っ」

「死ぬな!此れは、次期、殿になる、直々の命令だ!」

「ふふっ……な、に、そ…れ。へ、んな…、め、いれ、い…」

「好いから喋るな。もう直ぐ救護も来る。だから…っ」

「ね、ぇ…わ、かぁ。たぶ、ん、も、う…だ、め、だ、と、思、う、ん、だ」

「何弱気な事を言っている?!寝言は寝て申せ!お主はまだ……」

「だ、め、な、の…。ど、う、や、ら、きゅ、う、しょに…クッ!」

「伊吹ッ!!」

「……ね、ぇ、わ、か…」

「……何だ?」

「あ、な、た、と、もっ、と、いっ、しょに、居、た、かっ、た、よ……」

「伊吹…?………ククッ…。俺を此処まで骨抜きにしやがって…こんな女、生涯、御前だけしか居ねぇってゆーのになぁ」




男の双眼は、其れはまるで獣の様に鋭くなり、刀に手を掛け、声を荒げて訊いた。

「おい、……伊吹を殺った奴は誰だ?」

だが其の問いに答える輩は誰一人居なかった。何故って。其れは、答えようとする浪人達を一人残らず勇正が斬ったからである。彼の顔は、誰のモノか分らない返り血を沢山浴び、刀を鞘へ戻すと、其の場に膝をつき泣崩れた。


「馬鹿野郎、馬鹿野郎、馬鹿野郎、馬鹿野郎オォォォォォォォォォ!!!!」


其の日、男の呻り声が、城下の方まで響き渡ったという。聞いた者は、「なんって哀しげな声なんだろうか」って、口を揃えて言った。



――其れから数日後の事である。城下では、ある話題で持切りになり、城内に入ろうとする市民達を抑える武士達の姿があった。何でも、殿の時正が、何者かによって暗殺されたのである。そして、殿が亡くなったと同時に、勇正の姿を見た者が居ないのだそうだ。

「ありゃあ、ぜってぇ勇正様の仕業で間違いねぇよな」

「あぁ、だろーな。だってよぉ、あんな切り口、よっぽどの剣術者じゃなきゃ出来ねぇもんな。……でも、其れよりここの主が居なくなったら、俺達如何すりゃあ好いわけ?」

「まーた、職探しの日々じゃね?あーぁ。こんな事になるなら、こんな処に勤めるんじゃなかったなぁ」

「御止しッ!!」

突然の第三者の声に驚き、武士の端くれである男二人は声がした方へと同時に振返る。

「!……な…何だ、お蘭かよぉ。吃驚させんじゃねぇーよ!コラァ」

「女がそんな態度取って好いと思ってんのかァ!?」

お蘭はハァ…と溜息を吐き、男二人を視界に捉えると、ゆっくりと口を開けた。


「―――――――」


「え…?おい、其れ、どーゆう事だよお蘭?!」

「マジなのか?だとしたら、なぁ、オイッ!」


お蘭は踵を返し、男二人に背を向け歩き出した。其の後を、男二人は付いて歩く。

其れは、三人の男女だけが知った秘密。此の秘密は、他の者には、知られてはならなかった。いや、知ってもらいたくなかった。特に、勇正にだけは。




我が命、掛けてでも、貴方を御守り致します!


伊吹は生きてたんだよ。そして、時正様を葬ったのは、死んだフリをしたあの子だ!

あの子は、私達全員を騙した、敵陣のスパイだったんだよ…。
















後書き

はい、とんでもないオチになってしまいすみません(-_-;)

あれぇ?当初のラストと違う。余りにも掛離れてるぅと思った時には時既に遅しというヤツでして、気付いたらこう…((何?


私、やっぱり誰かの視点で書くの駄目かも…

あ……でも、小説とは反対に漫画は主人公や周りの視点で描かれてる事が多いですよね(#^.^#)


私は読んだ事無いのですが、某有名推理作品シリーズって、助手の視点で描かれてるとかって聞いた事あるんですが、もしそうなら見本になるかなぁ((知るかっ!


時代は、戦国…で好いかな?((何故訊く?

江戸だと徳川家が天下取ってるし、平安だと貴族が偉いし、戦国からだった気がするんですよね。武士の時代って、確か…((歴史の勉強しろよ!!


言葉遣いとかもうグダグダですが、最後まで読んでくださった方、有難う御座います!!((何、綺麗に纏め様として、逃げようとしてんだゴラァ!



初出【2012年7月14日】

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