怖い
屋敷へと、セリヌは走っていた。
早く、一菜の所に行かないと
そんな事を思いながら...
雫の滴る音がする。セリヌは、ゆっくりと目を見開く。そこは、屋敷ではなく、まるで牢獄のような狭い空間であった。
「んー、んーんーんー」
セリヌは必死に叫ぶ。が、口に巻きつけられた縄や妙な喉の違和感もあり、か弱い叫び声しか出せず、部屋にすら響かなかった。
セリヌは、喉の違和感について心当たりが少しあった。
喉の違和感...弱化の魔法...?...でも、そんな部分指定なんて...いや、寝ている相手になら初級魔道士でも出来る...?
いや、今はそんな事を考えている場合じゃない...でも...
「怖い」
...なんでこんなことになってるの、?なんで?私は、屋敷に向かって、走って...それで、なんで目が覚めるとこんな場所にいるの?ねぇ、助けてよ。怖いよ。なんで私が...スクリズ...
改めて自身の状況を再確認した途端、見知らぬ場所にいる恐怖心や、全身を縄で巻かれ、行動の出来ないという恐怖心、雫が、ポツンポツンと落ちる音が、セリヌのその恐怖心たちををさらに掻き立てる。そんな事を思いながら、セリヌはうずくまる...
...そんなとき、カツカツと廊下を歩く音が聞こえてきた...
一方、スクリズ。フロウの指さした方角には心当たりがあった。
...テッカ君か...?
そう、フロウの嘘で、テッカが父や母も失ったことは知っていた。そのため、毎月最低限の資金と、食料や本や、おもちゃなども買っていた。
テッカ君には色々と買ったが...おそらくらテッカに上げたものは大抵あのガキに取られていたんだろうな...でも、家は、多分まだ...
扉を叩く。中からは、人の気配がしない。恐る恐る扉を開いた瞬間、魔法の気配を感じる
「おっと、」
とスクリズは声を出しながら回避する
「ちっ、避けやがって...」
と、椅子に座っているテッカの元父親だった男と、床に倒れた一菜と、大量に殴られた跡のあるテッカが壁を背に気を失っている光景を見た。スクリズは何か、プツンと切れてしまった。スクリズは手のひらを向け、魔法陣を展開する
「まじでお...」
そこまで言いかけ、1度冷静さを取り戻す。
「っ...なぜあなたかここに?もう貴方は、この子の親では無いでしょう...?」
そう言うと、ガハハハハハハハハハハ。と、数秒ほど笑ったあと、まるで、何事も無かったかのように無表情になる
「...俺は、こいつらの親さ...でも、虫を誰かに見せ付けるなら、かっこいい虫の方がいいだろ?見た目が悪かったり、凶暴だったりするやつは、見せたくても見せらんない。そもそも俺はそんなやつを見せない。見せたくない。ただ、それだけさ。」
スクリズは困惑の表情を浮かべ、次第に怒りが募る
「何言ってんだ...自分の子供は可愛くて可愛くて...仕方がないもんじゃないのか?!」
そう言うと、テッカの父親はテーブルを叩く。その衝撃でテーブルにはヒビが入る
「うるせー、分かってんだよ。んなの...でも、あいつに...頼まれたら...死ぬ前にひとつ教えてやる。あいつは精神操作系統の力を持っている。1回でもあいつの言った虚言を信じてみろ、そうすれば、あいつに操られるがまん...」
「っ!!」
その時、激しい轟音と共に窓が割れる。スクリズはドアへと吹き飛ばされる。目を見開くと、首のない椅子に座っている体と、テーブルの上に立つフロウがいた。
「一菜さんにちゃんと教えてあげよう。今一菜さんを殺そうとは思っていない。ただ、僕に歯向かったり、僕のいいつけを守らなかったら...こうなるからね。って...」
そうフロウは言って、スクリズに手をかざす
「起きてないから分からないか。」
「まっ...」
スクリズがそう言い開けた瞬間、黒い光弾がフロウの手から飛び出し、激しい轟音と爆発が起こる。爆発により、屋根は半壊。壁にダメージは入ったが、何とか持ちこたえている状態であった。激しい爆発により、前が見えぬほど埃が舞っていた。
「部屋の中で殺すのは、これだから嫌だ。」
手で顔付近の埃を払い、軽く咳払いをしながら呟く
「さーてと、一菜さん起き...?一菜さんに僕の力の効果を感じない...?うっかり殺しちゃったのかな...まあいいか、僕は次の場所へと先を急ごう。数年もこんなところに滞在するつもりなんて無かったんだけどな...」
そう言い、扉を開く
「塵すら残らなかったか」
フロウはため息をつきながら扉を開き、そのままどこかへと歩いていった...
〜牢獄〜
カツカツと聞こえてきた足音。セリヌの目の前に現れたのは、フードを着た男であった。低い男の声が空間内に響く
「解放してやる、あとは自由にしろ。目的は達成された」
それだけ言い放ち、牢の扉を開く
「その縛りを解けたらだけどな。」
そう言い残し、またコツコツと足音を立てて姿を消した
セリヌは力一杯に縄を解こうとしたが、全く切れる気配も解ける気配もしなかった。
もう無理...
そう心の中で思いながら、目をゆっくりと閉じる...
「助けに来たぞ、セリヌ。」