目が覚めると...異邦の地でした?
「や...めろ!」
と、部屋に一菜の声が響く。しかし、無惨にもナイフは、ヒルアの胸部へと突き刺さり、ヒルアはその場に倒れる
「な...」
「さァーて、フィナーレといこうカ。」
ヒルアに向かって、黒い仮面の男は歩き出す。
「う、、、おえっ...」
一菜は体を引きずりながら、なんとかヒルアと黒い仮面の男の間へと移動するが、息は荒く、視界は歪み、今にも倒れそうな程の状態であった。
「アラアラ、1人は胸部にナイフ。1人は何故か知ラないがもうダウン寸前。終わりカな〜...それじゃ、さラばだ。」
一菜の脳めがけて、仮面の男はナイフを取りだしてナイフを振りかざす。
「そこまで。ここからは容赦しないわ。」
仮面の男の持っていたナイフはいつの間にか弾かれ、目の前にはヒルアが居た。
「うぉ...は?ヒル...ア...」
それを視認した瞬間、一菜の意識は遠のき、意識を失った。
...目が覚める。一菜は、物凄い光によって目を覚ます。
「...うっ...朝...?って、どこなんだ?ここ...吹き飛ばされた...いや...」
...起き上がり、辺りを見渡す。先程までいたはずの宿屋や、その近郊の景色とは全くもって別の、栄えた街並み、レンガで出来た建造物、立派な聖堂、巨大な水晶玉などの様々な景色に驚きを隠せず、数秒ほど黙ってしまった。
「本当に、ここどこだよ。」
...それが、眠気の覚めた一菜の第一声であった。
...とりあえず、散策をしている。しかし、特に何かおかしな点もない。市場に行くと、人が多い。とにかく人が多い。俺にはそれが何よりも耐えられなかった。なぜなら、俺は地球にいた頃生粋の陰キャだったのだから。
「さて、そろそろ疲れたしこんな所から帰ろう...って、どこにだ?俺、帰り道わかんねえな...」
そう言いながらも、歩き続ける。
「ってか...そもそもこの世界に、俺の帰る場所なんて...」
少し俯き、そう呟く。
「おい、そこの。」
そう、誰かが厳つそうな声をした男に呼び止められた声が聞こえる。
「聞いているのか?!おい!ちょっと、無視するなよ、叩き切るぞ!」
この街は物騒だなぁ...そう思いながら、徒労であると分かっていつつも歩き続ける。
「おい、そこのお前だ!」
その声が響くと同時に、目の前をひとつの短剣が、左から右へと通り過ぎていく
「...まさか、俺?」
...俺、異世界に来てまで職質されるのかよ...
俺は、とある路地裏へと連れ込まれた。
「すまないね、私も仕事なものでさ。えーっと、まず君のお名前を教えてくれるか?」
「瀬谷一菜って言います。」
そう言うと、紙を胸ポケットから取り出し、その紙を人差し指でなぞる。その後、一菜の身体をじろじろと見ながら言う
「それじゃ、次...えっとー...見慣れない服装だけどさ、どこが産地の服なの?」
...いや、答えてもあんた分からんだろ。...指筆の加護か...
「に、日本です...」
そう言うと、口を大きくポカーンと開いた後、耳打ちする
「ちょっとこっち来い」
「あ、え?」
一菜はそのまま、とある裏路地の酒場のような看板の付いている場所の扉の奥へと連れ込まれる。そこに広がるのは、いかにも異世界の酒場という雰囲気の酒場であった。栄えている訳では無いが、所々に貴族のような服装の男性や、冒険者の様な服装をしている人がちらほらと見える。
「それで、ここは?」
「ここは...」
「ここ...は?」
一菜は固唾を飲み込む。
「日本から転生した人達の集った憩いの場でーす!」
「...え?...えぇぇぇぇ?!?!?!?!」
い、異世界転生者見かけないなーと思ったら、こんなところにいたのか。なんか、少し安心したな。これで、この世界での生き方とか色々と分かるし、同じ世界のコミュニティ同士での情報共有とかも出来て便利だな。
そう思っていた時、一人の裕福そうな育ちをした貴族の服装をした男性が寄ってくる。しかし、金髪で顔も日本人という感じではない。
「えっと、貴方も日本人なんですか?」
そう問うと、苦笑し、頭を掻きながら言う
「あぁ、僕は死んでこの世界へとやって来てね。この世界に来るのと同時に、別の人の元の子供に生まれ変わったんだ。多分、ここに居る人達はみんなそうだと思うよ。君みたいな死なずに転生...というか、転移って言った方が言葉としては適切だね。転移をした人の方が稀と言うか、僕も含めて誰も見た事がないと思うよ。だからこそ、君はこれまで大変だっただろう?この世界の言語を、我々もそうだが生まれた時から知っていたという訳では無い。これまで数年、十数年と、数十年。或いは数百年。それだけこの世界に触れてきて、この世界の言語に対する理解を日本語と同じ、またはそれ以上に深めてきた人もいるだろう。僕らはそうだった。だが君は、違う。なぜなら、僕らとは違う転移者だから。転移者となると、この世界の言葉に対する理解とかも僕らよりは少ないだろうからさ。だからこそ、君の苦労は僕らにも分かる。」
は、話なっげ〜...
「そ、そうなんですね。それは、大変でしたね。」
そう思いながらも、一菜は相槌を打つ。
「だが、何故だろう。君のその発音にはなにか懐かしいものを感じる。この世界の発音では無い...日本語のような、なにか。というか、よくそこまでこの世界の言葉で会話出来るね。この世界に来て、どのくらい?」
「えっとー...まだ1週間ちょっとって所ですかね...」
...ん?てか、それならなんで俺は日本語感覚でこの世界の言葉を話せて...
「それでは、私が君の事を案内してあげよう。この世界の事は、多分君よりも私の方が知っている。そうだ、ここに来る前は、君はこの世界のどこで何をしていたんだ?」
そう聞かれるが、まだこの世界の国・立地・土地...その他etc...についてあまり詳しくないため、自分は今まで何処で何をしていたのかなど、分かるはずもなかった。
「えっとー...すいません。どこにいたのかは分からないんですけど...あ!えっとそれなら、街の長の子供がスクリズっていう名前の...」
そう言った途端、周囲はざわつき始める。
「そ、それは本当か!?」
「うそだろ!?」
「本当なのか?!」
「スクリズ坊は大丈夫なのか!?」
一菜に全員が視線を注目させて、全員で一気にそう質問攻めする。
「あ、ああ...はい。大丈夫です。」
全員の興奮は収まり、安堵の表情を浮かべる
「な、なんでそんなにスクリズを心配して...?」
金髪の裕福そうな男性にそう聞くと、あぁ、それはね...と言いながら机に座り、珈琲を1口飲み、答え始める
「みんな理由は様々だが、私はあの街の出身なんだよ。あの街で過ごし、街の長の子供として一目見たときから、私は確信していた。あの子はこれから更に成長し、一国を担う程の逸材になると。それは、約10年ほど前の話なんだが...」
約10年前...
彼はまだ、当時7歳だった。
「おや、スクリズ坊。なぜ、このような辺境に?」
私...申し遅れました、私は、ライゼスと申します。私は、農作業をしながら、来訪してきたスクリズ坊にそう尋ねました。私は、その街の中では比較的辺境的な地で生まれ育ちました。2週目の人生というのもあり、その街の人の私への評価は、落ち着いていてとても10代だとは思えない青年くらいの印象だったでしょう。その為、私の当時の肉体年齢と同年代の人と私は馴染めず、学校的な施設にはいつしか通わなくなり、この世界での教育を受けることも無くそんな辺境で、のんびりと農作業をして生活をしていました。元々、日本にいた頃は農家だったので。
「いや、何もする事がないから、お兄さんのことを見に来たんだ!」
そう、無邪気な顔で言った後、こう私に聞いてきたのです。
「...お兄さん、こんな仕事してて楽しい?」
そう、心配そうな顔で聞かれたのを、今でも覚えています。
「えぇ、楽しいですよ。」
実際、私は楽しいと感じていました。街の方々に農作物を売り、笑顔で帰る姿や、今晩はどんな料理にしようと、楽しげに会話を交える夫婦の会話。そんなのを聞いているうちに、やりがいというものが分かった気がしました。あぁ、私にはこれしかない。そう。...ですが、彼の私の全てを見通したかのような発言に、私は動揺しました。それは...私の本当の本心を覗いてきたような気がして、少し、恐怖や驚愕などがありました。
「...えぇ、楽しいし、やりがいを感じていますよ。私が今1番したくて、1番なりたいものは、この農作物を育て、みんなに笑顔を届ける存在になる事です。」
「...嘘じゃないけど、嘘だよ。加護は嘘じゃないって言ってるけど、自分を偽っているだけ。本当の自分を、見失わないでね。」
そう言って、街の中心部へと去っていきました。私にそう言った時の表情は笑みを浮かべていましたが、どこか悲しげに、儚げな表情で、自分についてのことを、深く知りたいと思い、私はもう一度、何がしたいかを自身に問いました。
...私は昔、ヒーローに憧れていました。悪の組織から人々を救う、そんなヒーローに。...ですが、私に戦闘のセンスは無かったらしいです。適正属性は火属性でした。それは一般的で、普通です。しかし、肝心の魔法と呼ばれるものを放つ為の魔力が無く、それを生成し供給する魔法具を用いても、私は常人の10倍の魔力量を供給しなければ、まともに1cmにも満たない火を体外に放出することすら不可能でした。
...
「その為私は、冒険者ギルドへの支援や援助などのサポートや、四肢のいずれかを欠損させてしまって冒険者として復帰できない冒険者の就職支援等々を行い、間接的ではありますが、そうしてモンスターや、所謂、悪の組織と言いますか、盗賊と言いますか、そういう方々と間接的に対峙し、世界の平穏を守る。それが、私の今現在していることです。」
は、話は長いけど、立派だな。てか、スクリズ加護とかなくても洞察力が高くて人の本心とかわかるのチートだろ。
「そうなんですね。そ、そうだ、えっと、早くそのスクリズ達の元へ帰りたいんですけど...帰り方とか教えて頂けませんかね?」
そう聞いてはみるものの、首を横に振る
「今あの周辺は別の国によって包囲されていて、我々でも迂闊に近付く事は出来ない。本当はこの国の領土なのだが...おそらく、最近の周辺のテロ事件等に便乗して、もうそろそろこの国に攻め入るつもりなのかもしれない。」
おいおい、そんな物騒なことある?まだここ来て一週間ちょいだぞ?
「そうなんですね。てことは、そこの領土にさえ着けば、スクリズ達に会える...ってことですよね?」
とにかく早く合流しないと。てか、今更だけどなんで俺はこんなとこにいるんだ?
「まぁ、死にたいなら行ってもいいけど...オススメはしないよ?...あ、旅に出るなら...お金が必要だよね?。手持ちが無いなら、これを渡そう。」
そう言い、小袋から金の硬貨や銀の硬貨、銅の硬貨を数百枚ほど取り出す。
「これはまあ、同郷に住んでいたという事での餞別だ。受けとってくれ。」
こういうのは、1回拒否した方がいいっていうのは聞いたことあるけど...お金の無い状態で旅に出ることなんて出来ないからな。一回目で素直に受けとっておこう。1回拒否して仮に...「そうか、まぁ、無事をお祈りしてる」とか言われて無一文の状態でこんなよく分からない場所に放り出されたら困るし。
「ありがとうございます。素直に受け取っておきますね...っていうか、白金製の硬貨とかは無いんですね。」
そう言うと、少し戸惑ったかのような表情をした
「白金製の硬貨?...あぁー、それは多分凄い高価なやつだったかな。確か、えっとー、、、そう!金貨の1000倍は価値あるやつだったっけな!」
「...え?金貨の1000倍?金貨って、具体的にどのくらいの価値が...?」
そう聞くと、指を曲げたり開いたりを何度か繰り返し、このくらいかなぁと呟き言う
「多分、1枚でも兵士3人は1ヶ月の間雇えると思うよ」
「え?金貨ってそんな高価なんですか?」
「あぁ、基本的に流通しているのは銅・銀貨で、金貨は国のお偉いさんが所持や管理している。差を明確に表すなら、銅貨1000枚で銀貨1枚。銀貨1000枚が金貨1枚位の計算だ。恐らく、白金製の硬貨もそれに則れば1000倍になると思うんだが...」
...スクリズの家とか、白金製の硬貨とか金貨とか大量に置いてあったから、てっきりもっと流通しているものだと思っていたな...金貨は国のお偉いさんが所持...街の長とはいえ、さすがに金貨以上の価値ならば、持っていていい代物ではないと思うんだが...
「そんなものを...ありがとうございます。これから頑張ります!」
「おう、頑張れよ!あいつらの元に戻れるように応援してるぜ!」
これから、この街からスクリズ達の元へ合流することを目標に、この部屋を後にした。




